インフルエンサーマーケティング

SNSやYoutubeから生まれた新しいメディア

おそらくこの10年で出てきたマーケティングの手法で最も影響力があるマーケティングの手法がインフルエンサーマーケティングであろう。元々、有名人のお勧め的なマーケティングの仕方は存在したが、ソーシャルメディアとYoutubeを始めとする動画サイトの普及により、芸能人やスポーツ選手のような有名人ではなくても、情報の発信主体になることが可能になったことにより、強力な拡散力とアピール力を持つ存在がそれ以前とは全く異なる方法で生まれる環境になってきた。少し前であれば考えられないような変化である。

2023年10月の景品表示法の改正により、ステルスマーケティングが法律上も明確に禁止されたため、以前よりはやりにくくなる部分は出てくるのかもしれないし、このエリアで最も成功した企業であったUUUM社が赤字に転落し、TOBの対象になるなど一時期とは状況が変わってきているのかもしれないが、とは言いつつも、最盛期がおそらくおかしかっただけだと思うので、どこかでよい落ち着きどころが見つかり、ある程度安定したマーケティング手法として集約されていくのであろう。

私の場合は、インフルエンサーマーケティングが流行りだした当初に、比較的に有力なコンテンツがゲーム関連の動画とクリエーターであったため、2015年に帰国する少し前くらいから米国を皮切りに少しずつ実験的に利用を開始した。特に、英語圏のインフルエンサーは英語で配信するとGlobalでリーチできる訴求力があるため、なかなか無視できない存在であり、有効な活用方法を検討せざるを得ない状況であった。

では、インフルエンサーマーケティングの利点はどこにあり、どのように活用することが成功への近道なのであろうか?(なお、人材紹介会社に転職してからは殆ど活用していないので、少し情報が古いかもしれないので、基礎編くらいで考えてもらえれば。最新版は専門の方の情報を当たってください)。

  • TVなどでリーチ出来ない顧客層にアクセス可能
  • ターゲット層にピンポイントで情報を伝えられる
  • 訴求内容を詳細に伝えられる

この3点くらいが主要な特徴であるかもしれない。

TVや雑誌などでリーチ出来ない顧客層にアクセス可能

ゲーム業界でインフルエンサーを早々に無視できなくなってしまった理由が、それまで主力としていた情報発信の媒体の訴求力がYoutubeを中心とする動画プラットフォームに置き換わってしまい、ターゲット層にリーチするためにはYoutubeのインフルエンサーを活用せざるを得なくなってしまったからである。どこまで意図されたものかは不明(というかおそらく意図的ではない)だが、ゲーム業界で当初最もインフルエンサーマーケティングで成功したと思われるタイトルはMinecraftであった。それ以外でいうとFortniteRobloxなども代表例であろう。Minecraftは私がゲーム業界に入る以前からある程度Hitタイトルとしての地位を確立していたが、FortniteとRobloxがヒットする過程はほぼゼロから見ていたが、どう見ても自分がこれまでやってきたパフォーマンスマーケティングを中心とした手法とは異なる方法により大ヒットしたゲームという状況であった。特に、ゲーム業界で非常にマーケティングが難しい対象が13歳以下の子供で、米国は子供に対する広告の規制が非常に厳しいため、子供にリーチする方法が相当限られるのであるが、そのポジションを私のイメージではYoutubeが根こそぎ持って行ってしまった感じであった。そこにガッツリはまった代表例が、この3タイトルであろう。私が米国にいたころはまだMinecraft全盛期で、小学生以上の子供の親に聞くと学校中のほぼ全員の子供がスマートフォンでMinecraftを遊んで、遊んでいない時間は親が許す限りYoutubeでMinecraftのインフルエンサー動画を見ていると大げさでなく話していた。Fortniteがヒットしたのは日本に帰国後であったが、同僚に話を聞くとMinecraftで米国の小学校で起こっていたことと全く同じ現象が日本の小学校でも起こっている感じであった。

おそらく子供は代表例であるが、最近の新卒の若者とかに聞くと、一人暮らししている家にテレビを買わないというのが全く珍しくない状況であるため、今後益々既存媒体を中心にマーケティングをしていた企業はその代替手段を考えなければいけなくなる。

家にテレビがある自分の日々の生活を振り返っても、TVは決まった番組の録画しか見ないので、広告はスキップしてしまい、それ以外の時間はYoutubeかNetflixしかみない生活である。先日実家に帰ったときに84歳になる自分の父親が、毎日楽しみにしている巨人戦の試合中継を倍速で見ているのを目の当たりにして、時代は変わったものだと心から驚いたくらいなので、マーケティングの活用メディアも根本的に考え直さなければいけないと心から思った次第である。

もちろん、デジタル系の広告で代替出来ることも十分にあるが、デジタルの中心であるパフォーマンスマーケティングの手法はBottom Funnel中心であるため、Upper&Middle Funnel向けの施策の代替手段は確実に必要であり、この側面でインフルエンサーマーケティングは有効に活用すべき手法であると考えられる。

ターゲット層にピンポイントで情報を伝えられる

一口にインフルエンサーといっても、チャンネル登録者やフォロワーが何百万人以上おり、一回の動画の再生も数百万となるようなメガインフルエンサーもいれば、ニッチな情報発信をコツコツ行っているようなマイクロインフルエンサーといわれる人たちもいる。

メガインフルエンサー

もちろん、メガインフルエンサーを活用するとリーチ力、訴求力もあるため、上手くいけば非常に高いパフォーマンスを期待できる。大手ゲーム会社時代に、日本有数のメガインフルエンサーが自社のトレーディングカードゲームの大ファンであり、何度かコラボレーション企画を行った経験がある。ただ、このような特殊なケースを除くと、私自身はメガインフルエンサー系の露出には消極的である。

まず、そもそも企画当たりの値段が高すぎるという問題が単純にある。UUUMの状況を見るとすこし状況は変わってきているのかもしれないが、UUUM全盛期は、ターゲット外の自分が名前も知らない人にこんなお金を払わなければいけないのかと正直躊躇するような金額であった。

ただ、費用が消極的な最大の理由ではない。もちろん企画の作り方にもよるが、一般的にインフルエンサー施策の契約というのは一本幾らで動画をインフルエンサーに作ってもらい彼らのチャンネルで配信してもらうというものになる。多くの場合、ある程度こちらの意図と希望は伝えつつも、基本的には自己のチャネル登録者やファンに訴求できる動画を最も理解しているのはインフルエンサーであるため、最終的な動画の内容の主導権はインフルエンサー側にゆだねざるを得ないことが多い。そうすると、ハッキリ言うと当たりはずれが多くなる。それが、下手な鉄砲数う打ちゃ当たるで何発も気軽に出来るのであれば問題ないが、問題は先ほど申し上げたように一発の値段が高いので、悠長にそうも言っていられない。では、下手な鉄砲にならないように、自分たち手動で企画を作るみたいな話になるが、マーケターは動画クリエーターではないのでそこから出てくる企画は予定調和的な面白いものにならないことが多く、そのような無難ことをするのであればそもそもインフルエンサーを使うこともないということになってしまう。

マイクロインフルエンサー

メガインフルエンサーにはこのような難しさがあり、同じような課題感を持っている人が他にもいたのだと思われるが、2018年頃から、マイクロインフルエンサーを数多くやるという手法が出てき始めた。私はこの手法は3つの利点があると思っている。一つ目は、デジタルマーケティングの利点であるターゲティングを細かく設定可能であるということだ。メガインフルエンサーになると、広く女性をターゲットにできる化粧品とか、消費財とかであれば良いかもしれないが(たまたま思いついたのがハリウッドのアーティストの多くが化粧品ブランドを立ち上げるので、この例にした)、例えばゲームのように細かいセグメントがあり、セグメントごとに顧客が分かれているような業種の場合、メガインフルエンサーになってしまうとリーチできる層の中に、ターゲットでない割合が大きくなってしまう恐れがある。一方、マイクロインフルエンサーの場合は、一人一人の訴求力は弱い代わりに、訴求のターゲットの精度が正しいインフルエンサー選定が行えれば拡大に高くなるのである。

2つ目の利点は、先ほどメガインフルエンサーでは費用的に難しいといった、「下手な鉄砲」手法を比較的気軽に実施可能な事である。マイクロインフルエンサーを数多く活用することで、ゼロサムで上手くいくか行かないかというギャンブル的な施策にならないようにリスクヘッジをするのだ。また、この手法は同時並行でABテストを回すことも出来るため、どこかでうまくいった手法を別のインフルエンサーに横展開するみたいなことも実施可能である。

最後は、複数のインフルエンサーがいくつも動画を上げ、それをターゲットユーザーが見ることによって、インフルエンサー内でそのタイトルが人気で話題になっている雰囲気を出すことができるという事である。3つ目は、そんな感じがするくらいの話で、特に何の証拠もないのだが、自社や他社の手法と結果を見ながら、このような雰囲気の醸成はマーケティング的に必要な事なのではないかと感じている。

私の理解では、メガインフルエンサーは手法や媒体は異なるが、私としてはタレントを雇ってTVCMをやるのと発想としてはそれほど変わらない手法だと思っている。このため、おそらくメガインフルエンサー施策を上手くコントロールする方法は伝統的マーケティングの手法に詳しい人の方が上手にやれる気がする。

一方マイクロインフルエンサー施策は、非常にデジタルマーケティング的である。今回のターゲティングの精度という利点も、マイクロインフルエンサーでの利点として考えてもらえるとよいと思う。

  

訴求内容を詳細に伝えられる

3つ目の利点は、インフルエンサー動画の尺の長さに由来する。最近TikTokやYoutubeショートなどがどんどんポジションを強めてきているため、ある程度短めになってきているが、それでも15秒のTVCMよりは長い尺のクリエイティブを作ることが可能である。

この特性を考えると、私はインフルエンサーマーケティングが最も効果を発揮できるのはMiddle Funnelの領域であると考えている。実はこれまでMiddle Funnel向けの施策というのはUpperとBottomと比較して有効な手段がなかったように思う。UpperはTVCMなどでお金をかければ何とかなる。Bottomはデジタルマーケティングの誕生によりこの20年でもっとも効率化したマーケティングの領域であろう。これに比べてMiddle Funnelというのは余りこれという有効な手だてが少なかった気がする。あるとしたら、TVCMなどでブランド名よりもサービス内容の訴求を厚くすタイプのクリエイティブで絞りに絞り込んだ訴求点を15-30秒の間にやり切るくらいであろうか?もちろん、それ以外にも、サンプリングで実際に体験してもらうであるとか、街頭やイベントなど集客力の高い場所で体験型の施策を行うなどの手法も検討可能である。しかし、このようなリアルイベントも場合によっては有効であるが、例えば認知をTVCMで全国で獲得しているとしたら、その受け皿の施策がそのようなオフライン体験会のようなものであれば受け皿としては貧弱で、ファネルが急に絞り込まれすぎてしまう。

このように考えると、インフルエンサー施策というのは、ある程度その人物とそれなりのリレーションがあるユーザーが視聴してくれるため、多少長尺でも見てもらえる。これにより商品・サービスについての詳細な情報を伝えることが可能となる。もちろん、それを説明口調で棒読みされても面白くないので、そこはクリエーターに工夫してもらわなければならないが。

このような意味でも、インフルエンサーの選定はきちんとターゲティングにあったものでなければいけない。さらに理想的なのは、トレーディングカードゲームの例で紹介したように、そもそもそのインフルエンサー自体がビジネスとしてお勧めするというよりも、契約以前から商品・サービスのユーザーであったり、新商品・サービスであったとしても、本当に良いものだと思ってもらえているとなおよいということになる。もちろん、多くのインフルエンサーはプロフェッショナルとして活動しているのできちんとパフォーマンスはしてくれるはずだが、やはり普段から使ったり、体験したり、勧めたいと思っているものとそうでないものというのは分かるものだし、そもそも説得力が違ってくるからである。

Full Funnelの問題点を明確にして有効に活用する!

ここまで見てきたように、インフルエンサーマーケティングというのは新しい手法であるが、非常に可能性が高い手法である。但し、インフルエンサーが紹介したことで爆発的にヒットした商品のような成功事例を見たりすると、インフルエンサーマーケティングをすればそれだけで物が売れると思ってしまう人がいるかもしれないが、それは過剰な期待である。実施を検討するときは、そもそもFull Funnel全体の中で現状何が問題で、その問題を解決するためにインフルエンサーの活用が適切なのかどうかを必ずロジカルに検討しなければならい。そのロジックがあることで、インフルエンサーに対して明確なオリエンテーションが初めて可能になる。また、そのプロセスが正しければ、インフルエンサー施策の効果検証をするポイントも明確になるであろう。

多くの場合、Upper&Middle Funnel向けの施策になるはずなので、御多分に漏れず効果検証は難しいかもしれないが、少なくても何に気を付けてチェックしなければいけないかは、これまでの議論を読んできた読者の方であれば判断できるであろう。

正直、私のようなおじさんマーケターには、特に若いターゲット向けのクリエイティブが良いのか悪いのかは判断がつかないことが多い。全くいいと思えないコンテンツが良いパフォーマンスを出したり、良いと思うものがパフォーマンスを出せなかったり、予想の精度はハッキリ言って低い施策であることは確かである。しかし、だからといって無視してよい存在では決してない。特に若年層や子供向けのマーケティングには欠くべからざる手法である。是非、いきなりメガインフルエンサーに投資するようなギャンブルはせず、デジタルマーケターの得意技の小さな失敗を早く、意図を持って行うという鉄則にしたがって、自社にあった活用法を考えてみて欲しい。