中長期視点でMiddle Funnel向けに行うコンテンツマーケティング
コンテンツマーケティンはオンライン上で自社のターゲット顧客向けのコンテンツを作成、配信することで、顧客とのタッチポイントを構築する手法と理解されている。メルマガやSNSでの情報配信との線引きは曖昧であり、厳密に何がどちらに属するかは明確に定義されていない。ただ、私の理解では、既存のCRM施策というのは多くの場合、CTR、CVRなど即効性のある効果を狙って実施されることが多いのに対して、コンテンツマーケティングは必ずしもそのような即効性のある効果検証指標だけで判断されることが少ないことが多い気がするので、その辺でなんとなく切り分けたら良い気がしている。
私の感覚ではコンテンツマーケ的な手法はそれ以前にもあったが、手法として認識され、現場でこの言葉が流通し始めたのは2015年に米国から帰国した前後くらいの記憶なので、たぶんこの10年くらいだと思う。
一口にコンテンツマーケティングといっても、手法は様々である。テキスト中心コンテンツを展開するパターンや、Youtubeの企業公式チャネルなどで独自の配信番組を作成方法、メルマガなどで単なるセールや登録促進ではなく読み物コンテンツを中心とした内容を配信することなどもこの手法のカテゴリーに分類されるであろう。
そもそも、何故コンテンツマーケティングなる手法が脚光を浴びるようになってきたのかと考えると、デジタルマーケティングの主な手法パフォーマンス広告とCRMが先に述べたように短期的な成果を重視したもので、中長期目線で顧客とのタッチポイントを作りたいであったり、直ぐに商品の購入やサービスの利用とはならなくても、リード顧客との接点を企業側としても確保したいというニーズが発生したためであると思う。このため、コンテンツマーケティングの手法はFull Funnelの3段階でいうMiddle Funnel向けの施策として機能するケースが多いことになる。
コンテンツマーケティング手法毎に目的と効果検証指標を明確化
おそらくこの点で大きな異論は出ないと思うので、ここではコンテンツマーケティングをMiddle Funnel向けに商品サービスの興味関心を喚起し、理解を促進する手法であると位置付けて以後の議論を進めていくこととする。
まず、コンテンツマーケティングで考えなければいけないのは、目的・狙いを明確にしたうえで、その活動の成否をどのように計測、分析、判断するのかという点である。これまでにも何度も議論してきた通り、Bottom Funnel以外の施策については、毎回問題になるポイントである。コンテンツマーケティングをMiddle Funnel向けの施策と位置付けた場合、その効果測定をBottom Funnelの購買転換や利用登録などの指標に求めるのは適切とは言えない。また、現実的にBottom Funnelと同じ指標で効果検証をすると、残念ながら既存のBottom Funnel向けの施策の方が効果が高かったり、コンテンツマーケティングのROIがネガティブになってしまったりすることがそれなりの確率で発生する。
また、コンテンツマーケティングというのは単発のコンテンツによって一気にMiddle Funnel向けの効果を狙うというよりは、コンテンツを蓄積していくことにより、効果が発現していくことも多いため、この観点からも短期の指標での効果検証とは平仄が合わないということになる。では、どのように解決するかについては、コンテンツマーケティングの具体的な手法の話の後で、もう少し具体的なイメージを持ってから話をしたい。
他にも手法はあるかもしれないが、私が経験した代表的なコンテンツマーケティングの手法は、下記のようなものである。
- Youtube等での番組配信
- 事業の周辺の話題に関するコラムコンテンツ
- コンテンツ系のメールマガジン
- SNSでのコンテンツ配信
Youtube等での動画番組配信
最近の日本におけるYoutubeを中心とした自社メディアでのコンテンツマーケティングの代表例はトヨタが行っている「トヨタイムズ」であろう。トヨタイムズの場合は自社サイトにテキストからYoutube動画まであらゆる形態のコンテンツを活用しているが、ぱっと見た感じYoutube動画が中心に見える。この例は、お金のかけ方が半端ないので、トヨタ以外の企業の参考になるのかどうか不明だが、Youtube等での動画の配信系のコンテンツマーケティングの代表例としては分かりやすいであろう。
規模は全く違うが、ゲーム業界などは、この動画系のコンテンツ配信を積極的に行っている業界であると思う。一般の企業よりは、ゲームショウや専門媒体などで、ゲームのクリエーターや広報/マーケティングの担当者の露出が多めの業界で、場合によってはユーザーに対して自社の社員の知名度がそれなりにあるケースなどもあるので、実施が実施しやすいというのもあるのかもしれない。
また、同じ動画配信といっても、PCやスマートホンを使って会社の会議室等からカジュアルに配信するものから、収録スタジオを使って生配信するケース。さらには、事前にスタジオ収録して編集してから配信するケースなど、コストのかけ方も様々である。当然今あげた3つの例で言えば、後者になるほどコストは増大していく。
これは動画に限ったことではないが、自社でコンテンツを作成して配信する最大のメリットは、第3者の編集が入らないため、自社で言いたいことを漏れなく伝えることができる点である。TVのような既存メディアのNews等で取り上げられる場合など、撮影で話した内容のうち番組の制作サイドの意図に沿うものを彼らの必要な長さで切り取られることになるため、自社が話した内容がどのように放送されるかは基本的には放送結果を見るまで確認できないし、結果として意図通りのメッセージが伝わらないことも多い。自社コンテンツの場合は、この心配はそもそもないし、コンテンツの長さも顧客に視聴してもらえるかは別にして、理論上はどれだけ長くても実施可能である。
ゲーム会社の場合などは、新商品の発売前等であれば、商品の特徴を表すネタを発売までのスケジュールに合わせて、どのメディアで何時、何を言うかというプランを作成し、自社配信番組などで、割り当てられた新着情報を盛り込んだコンテンツを作ったりする。
Free to Playのゲームの場合は、コンテンツ配信後に、今後のゲームの運営予定の情報などを詳細に既存ユーザーに伝える場として活用されることが多い。
効果検証の指標としては、前者の新作ゲームの場合などは、動画配信の視聴数やその新着情報を情報ソースとして露出された媒体の露出量などを自社で実施している広報・PRの効果検証指標を用いて評価することが検討可能かもしれない。後者の既存ユーザー向けの施策については、ゲームへの休眠ユーザーの復帰数であったり、既存ユーザーの継続率などが指標になるかもしれない。
動画の場合は、どの程度のクオリティで制作するのかで、期待するリターンの大きさが大きく変わってくる。外部にスタジオを借りて、制作スタッフも外注したりすると、30分程度のコンテンツを制作するのに数十~数百万円程度の費用がかかってしまったりするので、それなりのリターンを期待せざるを得ない。一方、社内の会議室等で撮影するということにしてしまえば、おそらく数十万円レベルの機材を一度揃えてしまえば、あとは自社の人件費の範囲内で実施することも可能である。
先ほど紹介したゲームの効果検証指標をみてもご理解のとおり、収益との関連性を明確にしやすい効果を期待することは困難なことも多いため、その点を考慮したコンテンツの制作費を検討するのが良いと思う。
事業の周辺の話題に関するコラム系テキストコンテンツ
私が直近の医療福祉系の人材業などでやっていたのは、介護や看護、保育などの現場で働く方々に役立つような内容のコラムを月に何本を決めて配信するコラムコンテンツメディアの提供をマーケティング活動の一貫として実施することであった。このコンテンツの狙いとしては、表裏で2つあり、表の理由は本業では転職という通常数年に1回しか需要が発生しないビジネスにおいて転職活動期以外にもタッチポイントを持ち、自社のブランドをターゲット顧客に認識してもらう、好印象を持ってもらうことである。テキスト系のコンテンツについてはこれ以外にも、コンテンツSEOの効果を裏ミッションとして狙っている場合もある。SEOについては話し出すと長くなってしまうし、私の専門ではないので詳細は避けるが、簡単に言うと、ターゲットユーザーが検索エンジンで検索しそうなキーワードの検索結果に上位表示されるようなコンテンツを自社で保有して、自社コンテンツの露出を増大させる手法である。検索エンジンでたくさん検索されるということは、ターゲットユーザーの関心が高いコンテンツであることを意味するため、コンテンツの内容とトラフィックの獲得という一挙両得の施策になる可能性は高い。
ただ、この施策の問題点は、競合関係が激しい業界であったりすると、コンテンツの独自性を出すことが難しかったりするため、早い者勝ちで先行者利益が大きい可能性が高いということである。他社がやって上手くいっているからと追随しても開始時点でのビハインドがあるため、キャッチアップするのが難しいことが多い。さらに、これをコストをかけて強引にキャッチアップしようとすると、施策に即効性がないことが多いので、少なくても短期的にはROIをポジティブにすることは難しいケースが多く、今度は長続きしなくなる危険がある。私がいた医療福祉系のコンテンツマーケティングの代表的な成功事例は、看護rooという看護師向けの情報サイトであるが、これを後追いで追い越すのはなかなか手ごたえのある仕事であると思っていた。
競合がすでにある程度先行している場合は、あまり力を入れないか、ニッチな需要を狙ったコンテンツの開発から始めてみると良いし、すでにある程度ポジションを持てている会社の場合は、その優位性を維持する継続投資は少しずつでも実施することが重要である。
テキストコンテンツによるコンテンツマーケの場合は自社サイトのトラフィックであるため、ある程度トラッキングが可能なことが多い。このため動画等よりは指標設定もしやすいケースが多い。具体的には、例えば商品購入やサービス利用の転換は中長期施策であることを考慮して、通常のBottom Funnelの施策よりも計測期間を長くしてトラッキングしてみることで、施策の目的にあった時間軸で効果を検証してみることが出来るかもしれない。例えば、転職でBottom Funnelの効果検証を2カ月くらいでしているとしたら、コンテンツマーケティングは6か月で見るなど設定して、過去事例のデータから2カ月目から6か月目の転換者数の換算レートを把握して、2カ月目で6か月後の予測値を出せれば、Bottom Funnelとの費用対効果の検証を同じ指標で行うことができるかもしれないというようなアイディアである。
コンテンツ系のメールマガジン
コンテンツ系のメールマガジンの施策については、コンテンツの内容はひとつ前のコラム系テキストコンテンツ型の場合とそれほど変わらない。異なる点はコンテンツのデリバリーの方法である。コラム型テキストコンテンツの場合はコンテンツSEOを代表として、トラフィックが外部から何らかの形で流れてくるのを待たなければならない。よほど大きな自社トラフィックがない限り、コンテンツを出したからといって、いきなり多くの読者を獲得できるということは望みにくい。一方、コンテンツ系メルマガの場合は、すでに自社にメールを送れるユーザーデータベースがあるのであれば、Push型でコンテンツをユーザーのもとに送り届けられるため、短期間で読者の獲得を期待することが可能である。
コンテンツ系メルマガの利点は、通常のメルマガ施策からユーザーの目線を少し変えてみる効果にあると考えている。例えば、ECサイトのメールマガジンになると、今週のセール商品であるとか、ポイントが何時から倍付ですよとか、即効性を求めた販促施策のようなコンテンツがどうしても中心になってしまう。そこに、例えば、商品の開発秘話であるとか、購入後の手入れの仕方であるとか、直ぐに物を買ってくださいという話だけでなく、自社商品をより深く知ってもらう、長く愛好してもらうようなリレーション作りのコンテンツを配信することで、長期的に顧客と良好な関係を気づく切っ掛けとしてもらうことなどは、例え短期のリターンがなくても有効である可能性が高い。
また、現実的な運用として、コラム系コンテンツとコンテンツ系メルマガでコンテンツを使いまわすことなども十分検討可能な場合も多いので、運用フローを整備して、一挙両得を狙うことなども検討可能かもしれない。
効果検証指標としては、例えば顧客との良好な関係という事でいえば、メールの開封率の改善であったり、Webに遷移させてコンテンツの通読率などが通常の販促コンテンツよりも改善していることが確認出来たりすると、狙い通りの効果があると判断できるかもしれない。
しかし、これについても即効性はないため、定期的にコンテンツメルマガの開封者とそうでないメルマガ会員との一人当たり購入金額の差分を計測するなどの長期効果も確認してみるとより施策の効果を実感出来るかもしれない。
SNSでのコンテンツ配信
SNSを活用したコンテンツマーケティングもメルマガ系の施策同様、テキストコンテンツのデリバリー方法の違いによる派生形と考えてもよいかもしれない。
例えば、コラム系テキストコンテンツを作成したら、そのページへのリンクをFacebookやXなどで配信して、顧客誘導するなどはアイディアとしてありかもしれない(Instagramはこのような目的では利用しにくい)。SNSにフォロワー数が蓄積されていれば、コンテンツの閲覧数をある程度計算できるようになるであろう。
一方で、コラムコンテンツのようなWebサイトを持たず、SNS単体でコンテンツマーケティングをする場合は、SNS上に掲載に適したコンテンツ量には限りがあるため、コンパクトで需要のあるコンテンツ企画ができないと厳しいのかもしれない。正直、この辺は得意分野ではないので、具体的なアイディアはないのだが、Web上で成功事例などを見つけて、参考にしてみてもよいかもしれない。
メルマガ系施策との違いといえば、効果検証が大きいかもしれない。SNSのフォロワー、読者の個人情報はなかなか取りにくいのが現状であるため、特にSNS内で閉じたコンテンツマーケティング施策をしてしまうと、施策の効果検証が難しい。SNSマーケティングの説明でも効果検証の困難性は議論した通りだが、何らかの方法でメルマガ系施策と同様のトラッキングが出来ないかの手法を工夫してみるとよいかもしれない。
Bottom Funnel 中心の会社はコストをかけ過ぎずに細く長く
ここまでで、コンテンツマーケティングの代表的な手法を見てきたが、総じて言えるのは、あくまでも長期的な施策として即効性を求めないという事だと思う。即効性を求めすぎると、結局はBottom Funnel施策に近づいていき、最後には同化してしまうと思う。デジタルマーケでBottom Funnel施策に馴染めばなじむほど、頭の切り替えが難しいのだが。
私は、このためにも、コンテンツマーケティング施策もSNSマーケティング施策同様、中長期施策として細く長く、コストをかけ過ぎずに行うことが現実的にはよいとおもっている。効果検証が難しいオフライン系の施策を実施していた会社がその予算をコンテンツマーケティングに回すということであればその限りではないのかもしれないが、Bottom Funnel中心にやってきた会社には、間違いなくその方が中長期的な成果を得るところまでたどり着ける可能性が高くなると思う。
※トヨタイムズについて
コンテンツマーケティングという視点では、最初に例に上げたトヨタイムズのチャレンジは相当注目に値すると思っている。トヨタイムズが立ち上がってから長期で海外に滞在してゆっくりテレビを見る機会もないので海外の事情は分からないが、少なくても日本市場においては、トヨタはマーケティングの予算の多くをトヨタイムズに集約し、個別の車種のTVCMなどは殆どやめてしまったように見える。
私が既存の大手広告代理店と頻繁にコミュニケーションしていた2010年前後の大手広告代理店のトヨタへの対応の体制などをみると、おそらく日本で最大級の広告宣伝費を使っていたことは間違いないので、その予算の中心であったと思われるTVCMの費用を自社メディアの開発とその宣伝活動に振り替えたのであれば、おそらく日本のメディア史上類を見ない規模の新規メディア開発のプロジェクトだと思う。おそらく、事業会社のコンテンツマーケティングという枠を超えて収益メディアまで枠を広げてもメディアの立上げとしては史上空前の規模であると思う。
目的・狙いは、今回議論した内容に近いものだと思うが、TVCMを自社メディアの宣伝に切り替えてしまった決断を見ても、短期視点でもTVCMよりもコンテンツマーケティングの方が効果があるとある程度確信が持てたのだろうと思う。
内部情報はないので、外から見た範囲でしか言えないが、ちょっと普通では考え難いマーケティングの実験だと思うので、動向を見守りたいトピックスである。