パフォーマンスマーケティングとは?
デジタルマーケティングと言って、一番最初に思いつく手法がデジタル広告ではないだろうか?以前に、現在主流のオークション型デジタル広告の基本原理については、市場理解の重要な手がかりなので詳細に説明した。まだお読みでない方は、こちらも合わせて読んでいただきたい。また、Full Funnelのマーケティングについては、別途詳細に議論をするため、この場ではパフォーマンスマーケティングといわれる領域を中心に話をすることにする。
まず、大前提としてパフォーマンスマーケティングとはどのようなマーケティング手法のことをいうのかについて、私なりの理解を説明したい。ちなみに、パフォーマンスマーケティングとほぼ同様の意味をもつ言い方として、運用型広告、UA(User Acquisition)、Bottom Funnelなどの言い方がある。厳密にはいろいろ定義があるのかもしれないが、これから述べる私なりの定義では、ほぼ差がないと思ってもらって構わない。
私は、パフォーマンスマーケティングを下記のように定義している
「デジタル広告で顧客獲得をすることで、売上、利益を最大化するための広告手法であり、売上・利益を最大化するために、収益化出来る確率の高い顧客を適切な単価で獲得すること」
この定義で重要なキーワードは、「売上・利益を最大化」「収益化出来る確率が高い顧客」「適切な単価」の3点である。
売上・利益を最大化する
この点については、マーケティングのGoal設定の話をしたときに詳細に議論したため、ここで詳細を説明することは割愛するが、企業が営利事業を行っており、事業を長期的に成長させていくことが求められると考えれば、その重要な一部として活動するマーケティング部門の主要なファンクションであるパフォーマンスマーケティングの役割が売上・利益の最大化となることに疑問を持つ方はいないであろう。但し、この売上・利益の最大化を前提としていても、次の2つの条件を正しく設定、運用できておらず実現出来ていないケースが多く存在するため、正しい理解が必要である。
では、新規獲得した顧客からの売上・利益を最大化するために必要な活動とはどういうことなのであろうか?一つ目の条件は「収益化出来る確率が高い顧客」であること、もう一つの条件はその顧客を「適切な単価」で獲得するということである。
収益化できる確率が高い顧客とは?
収益化できる確率が高い顧客というと、そもそも収益化できない顧客が存在するのかという質問が出てきそうである。これまで経験をしてきた業種によっても、この話がすぐに理解できる人と出来ない人がいると思うので、具体的に説明する。この話は別にデジタルのマーケティングに限った話ではないので、まず誰でも想像しやすい実店舗の小売店を例に考えてみよう。では質問。貴方は渋谷で通りに面するファッションのセレクトショップを経営しているとしよう。貴方の顧客はどのように定義するだろうか?いくつのの選択肢がありそうあ気がする。①店舗で商品を購入してくれた顧客、②①に加えて、入口のドアから店舗に入ってきた顧客も含める、③②に加えて店舗の前の通りを通りかかった人を顧客に含める、④渋谷に来たかどうかに限らず取り扱っている商品のターゲットとなる日本人全体を顧客に含める。
①の定義を顧客と捉えれば、顧客は100%収益化しているので、そもそも確率か高い云々の話は発生し得ない。そうすると、私が顧客といっている定義は①ではないことになる。私の定義は②に近い。③、④になると顧客とはなっていなくてどちらかというとターゲットユーザーとかマーケットの概念にちかいと思う。②の定義を顧客をとするのはそれほど違和感はないであろう。お店を運営してくれば、店に入ってきた人間に対応するのは顧客対応、接客と呼ぶ。つまり、買うかどうか確定していない人間も顧客と位置付けているわけである。この②の定義に従えば、収益化する確率とは①/②いうことになる。
では、同じような視点で、他の事例も考えてみよう。私が以前関わっていたモバイルのFree to Playのゲームなどは非常に分かりやすい。Free to Playといわれる形態のモバイルゲームは、ダウンロードして、遊ぶのは無料であるが、遊び進めるうちに何かアイテムを買ってキャラクターを強くするであるとか、ゲームを続けるためのスタミナが切れたのでスタミナを購入するとか、ゲームを有利に進めるために途中で課金するようなゲームである。逆に言えば無料の範囲内で遊ぼうと思えば基本的にはずっと無料で遊べるという形態のゲームである。Free to Playのゲームにおいては、②の定義と同様に考えると無料で遊んでくれている顧客ももちろん顧客と捉える。そのうちの一定数の顧客が実際に課金をしてくれて①の商品の購入をしてくれて、収益化できる顧客になるわけである。
また別の例を考えてみよう。永年年会費無料のクレジットカードなどはどうだろうか?楽天カードなど、よくTVCMで楽天カードマンが、「今入会すれば〇千ポイントプレゼント」みたいなうたい文句で新規会員の獲得の勧誘をしている。その特典が欲しくてクレジットカードを作っただけの顧客は②に属する。なぜなら、クレジットカードというのは作っただけではカード会社の収益には全くならない。クレジットカード会社に売上が計上されるのは、発行されたクレジットカードで顧客が何らかの決済を行ったときに、その決済金額の一部がその店舗からクレジットカード会社に決済手数料として支払われることで始めて収益になる。つまり、クレジットカード会社の①の顧客というのは実際にクレジットカードを決済に利用してくれる顧客ということになる。
ここまで見てきたように、マーケティングの新規顧客獲得というのは、お金を支払ってくれる顧客を獲得する活動のように思われるが、実際にはその見込み顧客の母集団作りをしているという側面が非常につよい。寧ろそのような側面の方がつよいと思われる。オンラインのサービスなど利用する際に、購入とかサービス利用前に無料の会員登録をさせられて、実際に購入・利用するかはそのあと決めれば良いみたいな経験をされたことがある方は多いと思うが、これらの話は正に②の顧客として獲得されているわけである。
適切な顧客獲得単価とは?
では、①/②の確率が高い顧客を獲得する活動とはどのようなものであろうか?
例えば、最初の実店舗のセレクトショップの例で、店舗の入口に「店舗に一度入られたお客様は最低一商品の購入をしていただきます」と張り紙を張るとおそらく確率は相当高くなる気がする。そんな馬鹿な話があるかと思うかもしれないが、たまにラーメン屋さんとかで「必ず1名様分のラーメンをご注文ください」と書いた張り紙が張ってあるのを見かけたりするであろう。正しいかどうかは別にして、セレクトショップで同じようなことをしても絶対にダメということはない気がする。但し、貴方はこのような張り紙がされているお店にフラッと入れるであろうか?入れると応える人は相当に勇気があるか、必ずそのお店に欲しいものがあると確信がもてるひとのどちらかであると思う。つまりこの手法の問題点は、顧客の収益転換率①/②はおそらく飛躍的に高くなるが、②の数が劇的に少なくなる可能性が高い。
Free to Playのゲーム場合はどうであろうか?一番簡単な方法は、無料で遊べることは遊べるが、それは最初の5分間でそれ以上遊ぼうとすると必ず100円課金しなければいけないみたいな仕様にしておくことである。もしそのゲームが十分に面白く、多くの割合の人がもっと遊びたいと思うのであれば、これも収益転換率は高くなるかもしれない。ただ、このような手法をとると、おそらくアプリストアのコメント欄は相当炎上することが予想される。無料で遊べると言っておきながらほぼ嘘ではないかと。こういう手法をとると、企業ブランドの価値が既存し、そのタイトルの評判も落ち、結局顧客数は減少していく。
カード会社の例では、おそらく会員登録特典の金額の大きさと収益転換率の関係は反比例する。初回特典が大きくなればなるほど特典目当てで、そのカード自体に魅力を感じずに登録する顧客の割合が普通に考えると増えるからである。
最初の2つは相当極端なソリューションを提示して、まあ実際にやるひとは殆どいないとおもうが、このような極端な例を考えると、収益化出来る確率が高い顧客の獲得に重要なポイントが見えてくる。
一つ目は、②の顧客となるためのエントリーハードルを低く、メリットを高く見せるということである。二つ目のポイントは、顧客に転換後に収益化しやすいようにサービスをデザインするということである。
一点目については、すでに十分にご理解いただけるであろう。基本的にエントリーハードルを低く見せ、メリットを高くすればするほど、顧客の獲得単価は下がっていくことになる。但し、そのハードルを下げ、メリットを高くするほど、収益化の転換率は低くなる可能性は高くなる。
このため、転換率を高めるためには、顧客獲得後のサービスデザインを魅力的なものにして、積極的にサービスを利用しお金を払ってもらえるようにデザインしていくことが必要になる。セレクトショップであれば、魅力的な商品、適切な価格、良い接客などがその要素になるであろう。ゲームであれば、ゲーム自体の面白さはもちろん、ゲームが面白くもっと進めたいと思うタイミングで倒さなければいけない程よく強い敵が現れたりして、少し課金すればもっと楽しく遊べそうだとユーザーに思わせられるかなどが重要である。業界用語でいうとゲームバランスという。
クレジットカードで言えば、利用するごとにポイントがたくさんもらえるとか、期間限定でポイントの還元率が高いなど財布に入っている他のカードよりも魅力的な利用シーンを適度に提供して、メインで利用するカードにしてもらうよう努力しなければならない。
収益化出来る確率の高い顧客を最大化する活動というのは、この2つのパランスを最適なものとする活動となる。
ここで、顧客の獲得単価の考え方について改めて整理しておきたい。改めてといったのは先ほど紹介したGoal設定のパートでも説明したからである。
よくある間違いは、
適切な顧客獲得単価 = 安い顧客獲得単価
と考えてしまうということである。この場合の安い顧客獲得単価という場合は、②の定義の顧客の話をしていることが多い。しかし、ここまで読めば②の顧客がいくら増えたところで、①の顧客が増えるかどうかは不明である。それはどのようなうたい文句で顧客を誘導してきたのかによって、ユーザーの自社の商品・サービスへの興味関心度合いが大幅に異なるからである。
私の考える正しい定義は
適切な顧客獲得単価 = ROIを最大化出来る顧客獲得単価
ということになる。
ではROIを最大化するとはどういうことであろうか?一般にROIというのは、収益額/投資金額で計算されるが、マーケティングの新規顧客獲得の視点で考えると次のようになる。
ROI=平均購入単価/購入顧客獲得単価(購入者CPA)
となる。厳密にいうと、平均購入単価ではなく顧客LTVの方が正しいのであるが、ここでは話をシンプルにするために、平均購入単価で議論をすることにする。
では、ROIを最大化するためにはどうすれば良いだろうか?ひとつは分子の平均購入単価を最大化することである。具体的には、単価の高い商品を買ってもらえるようにすることが考えられる。しかし、いきなり高いものを買ってもらおうとすればするほど購入転換ハードルは高くなるため、一般的にいきなり高い買い物をさせる努力をマーケティングの新規顧客獲得のフェーズでおこなうことは稀である。寧ろ初回購入特典をつけたり、セールのタイミングで購入者数の獲得増を図るなど、平均購入単価は低くなる可能性が高い。もちろん顧客獲得の平均購入額を高くするために、購入頻度を上げて累計の購入額を大きくする方法もあるが、ここでは話をシンプルにするために1回の購入でROIを計算することにする
もう一つの方法は、分母の購入者CPAを低くする方法である。購入者CPAは、
購入者CPA=新規顧客(①)獲得単価(新規顧客CPA)/購入転換率(①/②)
となるため、購入者CPAを低くするためには、新規顧客CPAを下げるか、購入転換率を高くするかのどちらかとなる。
パフォーマンスマーケティングとは、基本的には購入者CPAを可能な限り低くなるように活動する施策である。これまで見てきたように、購入者CPAを下げるためには、新規顧客CPAと購入転換率のバランスを見つける必要がある。しかし、この絶妙な組み合わせをすぐに発見できる可能性は著しく低い。しかも、その答えがひとつである可能性もあり得ない。パフォーマンスマーケティングとはそのバランスをPDCAを通じて、永遠と探し求める活動である。本章では、このパフォーマンスの定義に基づいて、その効率的な実践のために必要なポイントについて考えていく。
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