代理店のタイプ別分類

私もすべて知っているわけではないし、広告代理店で仕事をしたことがあるわけでもないので、実態と異なる部分があるかもしれないが、広告代理店と言っても、実は様々なタイプの会社があるので、代理店の基礎編としてタイプ別の代理店の説明をする。

  • 総合広告代理店
  • デジタル系総合代理店
  • パフォーマンス広告中心の代理店
  • メディア特化型代理店
  • 新規手法系代理店

総合広告代理店

私の年代で、最初に広告代理店と言われて思いつく代表選手は電通と博報堂であろう。ここにADKを加えた3社くらいが日本の総合広告代理店の大手企業である。これらの会社は手広くいろいろなことをしているため、私もすべてを理解しているわけでもないので、ここでは私が付き合ったことのある一般的な広告代理業務とその周辺業務の範囲で話をする。

まず、様々な代理店のタイプがある中で、総合系に分類される代理店の最大の特徴はおそらくTVCMを扱えることである。実態をすべて知っている分けではないが、TV局はTVCMを販売できる広告代理店をコントロールしている模様で、TV広告をやろうと思うと、大体大手の総合広告代理店に少なくてもメディアの買い付けを依頼することになる。

また、このTVCMが得意分野であることに大いに関係してくるのであるが、総合代理店の強みはTVCMを起点とした、コミュニケーション戦略の戦略策定から、それを実際のTVCMやグラフィックや、音声素材など、クリエイティブ制作までの一貫したプランニングを得意としているのが特徴である。

それ以外にも、デジタルマーケティング中心に議論をしているため、このBlogで話題になることはあまりないが、大規模なイベントのスポンサードや展示会への出典なども総合代理店経由で行うことが多い。というのも、イベント系のスポンサード案件は単純に枠を買うというよりも、それと関連して様々なオペレーションを伴う施策を実施することも多く、それを自社でやり切れない場合などは代理店に全体のプロジェクトマネジメントやアレンジを依頼するとワンストップで出来る利点がある。

当然、デジタル系の広告も取り扱っている。TVの衰退の現状を考えればTVCMを扱えることだけを強みにしていても将来性は厳しいと当然考えているからであろう。昨今ではデジタル系の広告運用も行っているが、実態としてはグループ内に次に話すデジタル系の総合代理店やパフォーマンス広告系の代理店を抱えて、実際の運用はそちらでやっているケースが多いようである。

このように見てくると、総合代理店の最大の利点は、戦略策定から媒体の買い付け、さらにはリアルなイベント等のオペレーションまでワンストップで行ってくれるという使い勝手の良さが、とくに規模の大きな企業から重宝される理由であると思う。

しかし、この代理店の使い勝手の良さこそが、日本企業のマーケティングのスキルレベルの著しい低空飛行を生む原因になっているような気がして私はならない。特に、代理店のプランニング能力に頼りきって、リサーチから戦略立案、クリエイティブ作成まで一貫して丸投げしてしまっている企業が多い気がしてならない。どこまで意図的なのかは分からないが、もちろん広告代理店がそのようにクライアントを飼いならしてしまったのかもしれないが。。。

デジタル系総合代理店

2000年前後のインターネット産業の勃興とともに新たに登場したのがデジタル系の総合広告代理店である。代表的な企業としては、サイバーエージェントやセプテーニ、オプトなどが有名であろうか?総合広告代理店と異なるのは、原則としてデジタルに特化しており、TVを中心とした4マス媒体と言われるオフラインの媒体は扱っていないか、扱い量が非常に少ない。

2002年のリスティング広告以前は、正直広告の枠売りをしていて、顧客の要望に応じた広告枠の選定(メディアプランニング)と広告素材の入稿管理が主な業務で、今考えると広告主側からすると、大した付加価値のない業務であった気がする。手数料の話でも書いたが、どちらかというとWeb上に無数に広がるメディア・媒体側の営業力の低さを代理店が集約的に営業することによって、媒体側に付加価値を提供していたというのが実態であったと思う。

しかし、リスティングの登場以降、おそらくデジタル系代理店の付加価値は広告の運用の精度向上によるパフォーマンス改善に軸足を移してきた。そもそも枠売りの広告枠というものがほぼ死滅してしまったので、それ以外生き残る方法がなかったわけだが、時代の流れからそのようになってきた。

そのような変遷を遂げてきたデジタル系総合代理店が最近になり力を入れているのが、総合代理店の独壇場であったプランニング・クリエイティブ領域である。たぶんこの4-5年の流れなような気がする。

背景は2つくらい思いつく。ひとつはそもそもTVという媒体の急速な影響力の劣化に伴い、のちに詳細に議論するFull Funnel系のマーケティングをデジタル完結/中心で行うというクライアントが少しずつ増えてきたことが考えられる。今までは、認知を一気に拡大しようと思うとTVCMをやるというのが一般的であったため、Full Funnelでやろうと思うと、総合代理店に依頼するのがほぼ唯一の選択肢であった。もちろんデジタル中心のFull Funnelを総合代理店に依頼することも可能であるが、デジタル系の代理店にとっても大きなビジネスチャンスなので、この分野に力を入れているということだと理解している。

また、もう一つの背景として考えられるのは、デジタルのパフォーマンス中心でマーケティングをしているクライアントのパフォーマンスが規模の成長にともない悪化して、Full Funnel系の施策も組み合わせて行わないと利益率を維持した成長を実現できない状況が増えてきているということもあるかもしれない。

いずれにしても、デジタル系の総合代理店と既存の総合広告代理店の違いは広告代理店という視点で考えれば小さくなりつつある。

パフォーマンス広告中心の代理店

リスティング広告の運用によるパフォーマンス改善という新しいデジタルマーケティングの特性に着目して2003-2004年くらいから急速に地位を伸ばしてきたのがパフォーマンス広告の運用に特化した広告代理店である。当初はリスティング広告に特化した代理店であるケースが多かったが、その後、デジタルのほぼすべてのメディアがオークション型の運用型メディアに置き換わってしまったためほぼすべてのデジタルメディアを扱うように現在では様変わりしている。

このため、デジタル系総合代理店との違いは、Full Funnel系の施策を行うかどうかくらいの違いになっている。デジタル系総合代理店と比較すると、規模は小規模であり、数が非常に多いので、私も知っているところしかコメント出来ないし、それが正しいのかも分からないので、具体名を挙げるのは控える。

サービスの内容としては、デジタル系総合代理店とパフォーマンス系領域においてはメニューとしては大きな差はない。このためやりたいことの違いでどちらが良いかということはあまりないと思う。このため、どちらかというと違いは企業の規模に起因することが多い。例えば、比較的予算規模が小さくても親身になってサポートしてくれるとか、小回りが利くとかそのような類の話である。詳細については、後日代理店選定のポイントを纏めて説明するため、そこで議論をすることにする。

メディア特化型代理店

パフォーマンス系の代理店も元々はこのカテゴリーに属していたのであるが、特定のメディアの広告を特化して扱う広告代理店も存在する、昔からあるのは、電車や駅のパネルなどを専門に販売する交通広告専門の代理店であったり、特定のエリアの媒体のみを扱う代理店であったりする。

あまりマーケティング部門が関わることは少ないかもしれないが、人材採用系メディアを専門に扱い、企業の人事部門から主に仕事を受けているような広告代理店もある。Indeedの登場依頼、じつはこの採用系メディアもパフォーマンス系の媒体になりつつあり(アグリゲーション系と呼ぶ)、これらの媒体に特化した広告代理店のようなニッチな企業も存在する。

これらの代理店はほぼ小規模であるケースが多く、サービス範囲も狭いため、クライアント側にニーズが明確な時に選ぶと良いかもしれない。ニッチなメディアの特徴を専門的に扱っているため、総合代理店の営業担当者では知らないような知識を活用出来る可能性がある。

新規手法系代理店

この分類も特定のメディア特化といえばそうなのであるが、新興企業であることがほとんどであるので、あえて別のカテゴリーとして新規手法系代理店というのを最後に追加した。この系の代理店というのは、新しい流行りの広告手法が出てくると、必ず現れる。例えば、Youtuberのインフルエンサーマーケティングが流行ればYoutubeのインフルエンサーマーケティングに特化した代理店が現れる。次に、TikTokがトレンドだとなれば、TikTokのインフルエンサーマーケティングに特化した代理店が出来たりする。

似たような話で、Youtuberの例同様に、vTuberが流行りだすとそれ専門のマーケティングをサポートする代理店が出てきたりする。

私のような歳のマーケターには正直理解が難しいエリアだったりするし、これらの手法は一時的なブームで終わってしまうものと、長く続くものとの見極めが難しいので、初めてトライするときなどはノウハウが集積しているこれらの代理店は重宝することも多い。手探りで試しながら、PDCAを回す際の伴走者として上手に活用してみるとよい。

一口に広告代理店といっても、ここで説明したように様々な業態の企業がある。おそらく広告代理店の仕事というのは、人件費以外の初期投資が殆どいらない業態であるため、特にパフォーマンス系の広告の登場以来、非常に独立がしやすい職種になっていることも背景にあると思われる。

逆に言えば、活用する広告主側からすれば、目的に応じた適切な代理店を選択することが必要になる。大企業のマーケティングをしている方で、なんでもかんでも総合広告代理店の営業担当者に相談してしまっていることなどないだろうか?