マーケターに育成できる人材を見極めるのは採用企業の責任
前項までで、人材育成の一般的な考慮事項と、マーケターが学ぶべきマーケティングの基礎体力の内容とその学習環境について説明をしてきたが、その中で簡単に触れながら、詳細に説明をしてこなかった項目がある。それは、マーケター、特に、現在のデジタルマーケティング環境におけるマーケターにはそもそもどのような資質が求められるのかということである。
批判されることを覚悟で正直に申し上げるが、一流のマーケターになるには、残念ながらいくつかの条件をクリアする必要があると考えており、安易に誰でも頑張れば成れるという楽観論は申し上げない。私は、企業における人材の採用というのは、採用する側と、採用される側の信頼関係の上に成り立っていると考えている。採用される側は当然日々の業務の中で最大限のパフォーマンスを出せるように努力することが責任と義務だと思う。一方で、採用する側に求められるのは、採用する職責を担うことが出来るポテンシャルがあるかを採用時点で見極めたうえで、採用時に提示した業務でより高い次元の人材へと成長させることであると思う。ここで、重要なのは、採用時点でポテンシャルを見極めるということであると思う。そして、それを正しく見極めるために理解しておかなければいけないのは、その業務を担うのに必要な資質要件を正しく理解することである。
なお、この経験者の採用にあたっては、資質に追加して、プロフェッショナルのキャリアからの経験値とスキルが当然加わる分けだが、それについては一般論で述べることは困難なので、この場での議論の対象にはしない。
デジタルマーケターに必要な5つの資質
私が考える優れたマーケターに必要な資質とは以下の5点である。
- 論理的に考える力がある
- 数字を見ることに拒否感がない
- ある程度真面目で、継続して努力することが出来る
- 責任感があり、自身の行ったことの結果にコミットできる
- 向上心が強い
論理的に考える力がある
クリティカルシンキング、ロジカルシンキングはもちろん訓練によって向上する部分はあると思うが、やはり個人の資質により向上できる限界値は決まってしまうのは事実だと思う。分かりやすく言えば地頭の良さという事にはなるが、面接で話をしながら、どれだけロジカルに考える力があるかは見極めなければいけない。
どの程度地頭がよければいいかを表現することは難しいが、分かりやすい基準としては、既存のメンバーとの相対的な比較で考えてみるのが分かりやすいのではないかと思う。
もし、既存のメンバーのクオリティに満足しており、リソースが足りないという状況であれば、既存メンバーのポテンシャルを基準値にすれば良いであろう。逆に、既存メンバーのクオリティに不満があり、チーム全体のレベルを向上させていかなければいけないという事であれば、既存メンバーのポテンシャル以上の人材を見極めなければいけない。これも事実として、企業には企業毎の採用競争力があるため、いくら頭の良い優秀な人材が欲しいと思っても、自社の採用競争力を大きく上回る人材ばかり集めようとしても上手くいかない。また、無理にそれを実現しようとして、新規の人材を既存メンバーとかけ離れた条件で採用したりすると、私の経験ではチームマネジメントの点で上手くいかないケースが多い。
いずれにしても、デジタルマーケティングの成功にはPDCAをロジカルに回していくことが必要不可欠であるため、それができるポテンシャルがあることは絶対条件である。
数字を見ることに拒否感がない
数字に拒否感がないということも当然必要不可欠な資質である。データドリブンなデジタルマーケティングの日々の業務は、多くの時間を数字と向き合いながら過ごさなくてはならない。そのような業務であるのに、学生時代から数学が全く苦手で、数字を見るのも嫌だという人を採用してしまうのは、リスクが高いと言わざるを得ない。しかし、マーケティングの正しい理解が乏しいと、少なくない割合でそのような資質の人がデジタルマーケティングを志望してきてしまうので、注意深く見極める必要がある。なぜ、デジタル化されたデータドリブンな領域であるマーケティングの世界に数字が嫌いという人が入ろうとしてしまうのかというと、勉強していない人はマーケティングの結果の部分のみを見て、華やかで楽しそうだと思ってしまっているケースが多いからなのだと思う。
例えば、話題となったTVCMを作って、有名タレントと一緒に仕事をしたりであるとか、最近であれば、インフルエンサーマーケティング等で、有名なユーチューバーと企画を作るだとかという話である。しかし、デジタルマーケティングに携わっている人であればすぐに分かる話だが、そんな華やかな話は、マーケティング業務のレアな一部にすぎず、日々の業務は大変地味な、細かい数字と向き合う日々となる。
そのような現実を知らないこと事態は全く罪ではないが、結果的に実際の業務に適した資質を持っていない人材は当然採用してはいけない。
ある程度真面目で、継続して努力することが出来る
ここまでで、ロジカルに考えることができ、数字に拒否感がないひとというある種当然のことを書いてきたが、実はこの2つ以上に、最も重要だと思っている項目が、この真面目で継続して努力するという項目である。
例えば、数字が最も重要なのであれば、「数字に拒否感がない」ではなく、「数字に強い」と書けば良いはずで、あえてそう書かなかったのは、無茶苦茶数字につよいことが最も重要だとは思っていないからである。
継続してこのブログを読んでくださっている方であれば、耳にタコが出来ているはずだが、デジタルマーケティング成功の秘訣はPDCAの高速回転である。具体的には、日々ABテストを細かいパラメーターを操作しながら行い続けて、昨日より今日、今日より明日がより改善した状態になるように継続的に努力していくことが最も重要なことである。
この考え方と反対の考え方が、早く結果を出したがるタイプの人材である。野球でいえばホームランを打つために、ホームランか三振かというようなフルスイングばかりするような人である。残念ながら、このタイプの性格の人は、現在のデジタルマーケティングには向いていない。なぜなら、PDCAの基本は、小さな失敗を早く、意図を持ってすることであり、一か八かで大きな失敗をするようなハイリスクハイリターンの姿勢はほとんどの場合求められないからである。
私は、真面目に、継続して努力、改善活動を行えるというのは、大変素晴らしい才能だと思っているし、その才能はどんな頭の良さにも勝る成功への近道であると思っている。デジタルマーケティングのチームに天才的なひらめきのある人はたくさんはいらない(一人くらいはいても良いかもしれないが)。日々のオペレーションを実行する大多数の人材は、この継続して努力をする真面目さがある人材で占められていなければいけない。
責任感があり、自身の行ったことの結果にコミットできる
PDCAを精度高く回していくということを別の言葉で表現すれば、自分で行った施策に強い責任感を持ち、自分が行ったことがどのような結果になったのか、その結果が想定通り上手くいこうが、上手くいくまいが、その理由を理解し、その理由を次の施策の成功につなげていくということである。
それを、真面目の一言で片づけることも出来るが、別の言い方をすれば、私は責任感と結果へのコミットということであると思う。但し、ここでくれぐれも誤解して欲しくないのは結果にコミットということと結果オーライ、結果良ければすべて良しとは根本的に異なるということである。ポイントは、単発の施策が上手くいくかどうかではなく、その結果がなぜ起きたのかを理解して、次につなげて、最終的に改善の方向に進み続けるということである。私自身がそういう性格だから、余計にそう思うのかもしれないが、人間良い時は深く考えずに感情的にHappyになり、悪い時にはその側面から目を逸らして忘れ去ろうしやすい気がする。もちろん日常生活ではそれでも良いのかもしれないが、ビジネスをする上においては、それでは大いに問題がある。PDCAの基本というのは何かといえば、成功の再現と、失敗の再発防止である。その繰り返しでPDCAサイクルにおいて成功の確率が上がり、改善のスピードが上がっていく。それを実現するためには、成功しようが、失敗しようが、その結果を冷静に受け止め、その背景を正しく分析して次の施策に活かす強い意思と、一度や二度の失敗に目を背けず、逃げ出さず、最終的に成功させるのだという本質的な結果へのコミットメントを強く持つことが不可欠である。この点を見抜くことはなかなか難しいが、失敗事例とそこからのリカバリーの経験談などを聞くと、なんとなく感じ取れたりする気がしている。
向上心が強い
マーケターに必要な資質の最後のポイントとして上げたいのは、向上心である。デジタルマーケティングの世界というのは日進月歩でテクノロジーが進化し、新たなメディアが生まれ、新たな手法が生まれてくるものである。こういう話をすると、年寄の昔話のような話になってしまってイメージが悪くなるが、私が本格的にマーケティングを始めた2002年9月の時点では、Googleのリスティング広告も、Facebookも、Youtubeのインフルエンサーマーケティングも、iPhoneも、AndroidスマホもInstagramもAIがコントロールする広告も世の中に存在していないか、あったとしてもほぼ普及しておらず、一般的なマーケティング手法となっていなかった。ほんの20数年前の話である。その間に、いま例に挙げたような新たな広告手法や、今は思い出せないような流行りのマーケティングの手法が生まれては消えていった。マーケターというのは、そのような新しいテクノロジーや広告手法の登場に対して、その本質的な意味を理解し、自分の課題の何を解決してくれる可能性があり、どのように使うのが最適であるのかなどを考えながら、自分たちのマーケティングの成功法則を常にバージョンアップし続けていかなくてはいけないわけである。立ち止まることは許されない。たぶん10年くらい前には、先ほど挙げた例のうち、ぱっと思いつく限りでも、インフルエンサーマーケティングとInstagramの広告などはほぼ活用されていなかった。いま、それらの手法を全く使わずに、自分たちが行っているマーケティング活動を最大限効率化していると言えるであろうか?少なくても、一度くらい試してみなければ、良いも悪いも分からないであろう。
よく若い人を面接していて、一つの会社で2-3年仕事をして学ぶことがなくなったといって転職するのを繰り返している人を見かける。本人はそれでキャリアアップしているのつもりなのかもしれないが、私はそういう人はよほどそのようになっている理由が明確で、納得感のあるものでない限り採用しないことにしている。なぜなら、一つの会社で2-3年で学ぶことがなくなるというのは、表面的な側面をなぞるだけで分かった気になっているか、本当に学ぶことがない会社なのかのどちらかとしか私には考えられない。もし、前者であれば、その人には物事を深掘って考え、真実を追求し、自分をレベルアップしようという向上心が足りないのではないかと思う。後者であれば、新卒1社目の会社は仕方ないにしても、それを繰り返してしまうのであれば、そもそも働く場を選ぶ判断が稚拙過ぎるとしか思えない。いずれにしても、良い人材である可能性は低いと思っているからだ。
自分を成長させるというのは、真面目に考えると結構厳しい道である。それを乗り越えるためにも向上心は重要な要素であると思っている。
自分の長所と短所を見極めて成長を加速させる
ここまで、私が採用面接で経験ではなく成長ポテンシャルを見るときに心がけて見ているポイントを紹介した。もちろん、一人一人には個性があり、今回紹介した要素が一つでも欠けたら可能性がないという話ではない。マーケティングというのはチームで仕事をするので、自分の苦手なことは隣の人が助けてくれるかもしれない。ただ、これらの要素を並べてみて、自分の性格、資質を分析するしてみて、自分の得意不得意を理解しておくことは役に立つかもしれない。自分のマーケターとしての弱点は何で、どういうところに気を付けないといけないのか?自分の成長を阻害している要素はどこにありそうなのか?それを知ることが出来れば、弱点を長所にまでもっていくことは難しくても、改善することは出来るのかもしれない。
ちなみに、自分でこのように書いた後で白状するが、人のことをいうのは簡単であるが、私自身はこの要素を全部満たしているわけではない。はっきり言って、3番目の真面目に努力を継続する力は著しく低い。でも、何とかやれている理由はまた別の機会に話すことにする。