広告代理店の基本構造

代理店と上手に付き合うには代理店の構造を理解しよう

読者の皆さんもだいぶ広告代理店に詳しくなってきた気がするので、いよいよ代理店選びの方法を教えろというプレッシャーが出てくるのかと思うが、残念ながら、それを感じる手段を持たないので、選定方法を話す前に、もう一つだけ代理店の基礎知識の話をしたい。それは広告代理店というのがどういう仕組みでクライアントと仕事をしているのかという基本構造の問題である。

まず、代表的、かつ、最も体制が充実している大手の総合広告代理店の仕組を例に話をする。代理店毎にネーミングが違ったりするが、ファンクションとしては大した違いはないと思う。

広告代理店と例えばそれなりの規模のTVCMの出稿も付随するような1年間のマーケティングプランを作りましょうという話になると、主な登場人物は下記のような感じである。

  • 営業担当
  • クリエイティブディレクター(CD)
  • ストラテジープランナー(ストプラ)
  • アートディレクター(AD)
  • デザイナー
  • メディアプランナー
  • デジタル広告運用コンサルタント
代理店のチーム構成

それなりの予算規模で、フルパッケージプランだと、およそこんな感じだと思う。まずそれぞれの役割について私の理解を説明する。繰り返すが、私は代理店で仕事をしたことがないので、クライント視点の理解である。

営業担当

確か最近の電通などはビジネスプロデューサーという肩書になっているが、私の印象では、結構このネーミングは当たっている気がする。私の経験では、広告代理店の営業というのは一般的なメーカーの営業のように決まった商品をいくつ売り上げて、いくら利益を出すかという感じで、売れるものの数をひたすら多くしてお金を稼ぐような仕事ではない。広告代理店のよい営業というのは、クライアント企業のマーケティングの、もしくは、もっと本質的な事業の課題を理解し、それに即したマーケティングの施策を代理店として提案するための代理店側の全体の取りまとめ役、司令塔である。クライアントのニーズに沿って代理店側で提案を作成するための各パートの人選の中心となるのもこの営業担当になる。その意味でも、代理店の営業担当というのは、クライアントから依頼されたプロジェクトの代理店側のプロデューサー的な役割を担っているといえる。

なお、デジタル系総合代理店における営業担当の役割というのもプロジェクトの配下に上記のフルラインナップのメンバーが揃うことはなかなかないが、担うべき役割は概ね同様である。

クリエイティブディレクター(CD)

CDの役割をひところで言えば、プロジェクトの具体的なマーケティングのコミュニケーションプランを統括することとなる。クライアントのマーケティング上の問題点やなりたい姿、市場でのブランドイメージとのGAPなど、様々なヒアリング情報やリサーチデータなどを総合的に把握し、それをどのように表現して顧客とどこで、どのようにコミュニケーションしていくのかの考える。特に、TVCMなどでは、以前に伝統的マーケティングにおけるPの重要性でも話たように、このコミュニケーションプランが的外れだと、何億円もつかる広告キャンペーンが完全に不発に終わるということも珍しくないため、非常に重要な役割となる。

ストラテジープランナー(ストプラ)

ストプラの役割は、主にCDの配下で、市場調査やクライアントのデータを分析するなどしたうえで、ロジカルな戦略策定をする現場の担当者である。プレゼンの際にストプラの人が説明することも多いので、実態として提案資料を取りまとめるなどもストプラが営業と一緒に行っているのであろうと推測する。

広告主がある程度自社のマーケティング環境や課題を理解している場合はストプラのチームから驚くような斬新な分析が出てくることは少ないように思うが、その部分を代理店の提案に頼ってしまっているような企業からすると、このストプラが分析した内容を正として施策の良し悪しの判断をせざるを得ないので、自社の分析力に自信のない企業には非常に重要な役割となる。

アートディレクター(AD)

ADの役割はCDとストプラの決定したコミュニケーションプランに基づいてクリエイティブを具体化していく上での、ディレクションの統括者である。具体的にクリエイティブを作るというときには、ADのスキルやアイディアが成否を決定する。私のようなクリエイティビティがない人間からすると、ADに要望を伝えるまでが主な仕事で、それ以降はADとそのチームのスキルとひらめきに頼るしかないと思っている。

デザイナー

デザイナーという言葉は凄く使い勝手が良い言葉で、その場その場で役割、定義が違ったりするが、このようなフルラインナップのプロジェクトでは、ADの下で具体的なクリエイティブを作るために現場で手を動かす人のことを言う。

メディアプランナー

コミュニケーションプランにしたがって、どの媒体をいくらでどのくらいの量を買うのかというメディアプランニングをする役割である。

デジタル広告運用コンサルタント

プロジェクトの中に運用系のデジタル広告が含まれる際に、実際に広告の運用を担当する役割を担う。大手の代理店だとメディア毎に担当が分かれることが多い。

総合広告代理店と前提で述べたような大規模なキャンペーンをやるとなると大体このくらいの人数が動くことになる。では、このような代理店と上手く仕事をする場合にキーマンは誰であろうか?もちろん全員が優秀であるに越したことはないが。おそらく、この説明を読めば、殆どの方が正解できるのではないだろうか?そう営業である。プロジェクト全体のプロデューサー的な役割を担う営業担当の能力で、プロジェクト全体のクオリティが相当左右されることになる。

ただし、この話は、ポジションとして与えられた役割の説明であって、代理店の営業担当のすべてがこの業務を高いクオリティで均質的にできるかといえば、残念ながらYesとは言いにくい。私が外から見ている印象だと、それはその営業担当の社内でのネットワーク、実績と信用、高い説明能力、よい上司からのサポートなどで、かなり結果は変わってくるように感じる。必ずしも、偉い人をアサインしてくれれば良いという話でもない。特に私のように、デジタル系のマーケティングを若い人向けにしているときに、中途半端に予算規模が大きかったりすると、営業担当も百戦錬磨のベテランの営業マンで、連れてくるチームもその会社の大御所チームみたいなことになったりするが、若者向けの提案がしてほしいのに完全にミスマッチであったりすることも少なからずあったりする。

代理店のタイプ別に構造を理解する

という感じでまずはフルラインナップを見てきたが、それぞれの代理店の形態別に、引き算でどのような体制になるか簡単にみていく。

デジタル系総合代理店

Full Funnel系のプロジェクトの場合はそれほど変わらないが、おそらくCDとストプラとメディアプランナーの役割はそこまで厳密に分かれていない感じがする。

運用系のプロジェクトの場合は、営業と広告運用コンサルタントとデザイナーくらいのチーム編成であることが多い。その理由は、ABテスト中心でコミュニケーションを作っていくので、事前のプランニングに大きなコストをかけないことに起因する。

パフォーマンス系、メディア特化型、新手法型

基本セットはデジタル系総合代理店の運用系プロジェクトの陣容になる。但し、企業の規模と、代理店の方針により、デザイナー以外は、営業担当が自身で担う業務範囲が増えていくケースが多い。つまり営業でクライアントの窓口もしながら自分で広告運用もするというパターンである。また、大手のデジタル系総合代理店はメディア毎に運用コンサルタントが分かれているが、小規模な運用系の代理店では、一人が複数のメディアの広告運用をしているケースも多い。

なぜ、代理店内のプロジェクトのメンバー構成の話を長々としたかといえば、実はそれを理解しないと代理店とのプロジェクトが何故上手くいかないのかが正しく理解出来ないからである。誰が、どのような役割を担い、何を決めているのかが分からないと、改善も難しいし、代理店を選ぶ際にも、このプロジェクトの成否の肝はどこで、どの人材の良し悪しで判断すれば良いかなどが分からないからである。ご参考にしていただければと思う。