楽しく勉強する方法

パーソナライズされた情報だけで生きられてしまう危険性

余り自慢をする話でもないので、何度も言うのもどうかと思うが、私は基本的に本を読むのがあまり好きではない。たぶん、この性分は子供のころからで、余り自分から積極的に本を読む子供ではなかった。おそらくそれが原因なのだと思うが、そもそも本を読むのが死ぬほど遅い。私の妻は私の数倍速く本を読むが、それでも自分よりも内容をよく覚えているので、驚くことが多い。と、残念ながら幼少期からの様々な要因が重なり、未だに本を読むことがそれほど好きではない(たぶん唯一の例外は大学院に行っていた時かな)。

そこに輪をかけて最近良くないと思うのが、テレビも紙の新聞も視なく/読まなくなり、YoutubeとNetflixとSmartnewsくらいしか情報と接しなくなってしまったので、自分に入ってくる情報がどんどんパーソナライズされ、興味があるものしか目に触れなくなってしまった。結果的に、世の中で何が起きているのかにもどんどん興味がなくなってきてしまっている。実は、そのようなひと結構増えているのではないだろうか?

ただ、マーケターとしてよくないと思っているのは、TVをリアルタイムで見なくなってしまったことで、自分がターゲティングされていない広告に触れなくなってきてしまったことだ。これには実は危機感を覚えており、唯一その機会として残しておこうと思っているのが、公共交通機関(主に電車)での移動である。これが全部自家用車で移動するようになったら、自分はマーケターをやめないといけないのではとか思ったりする。

本も読まず、情報も取りに行かずに最先端のマーケティングをする

別に清く正しい生活をしているわけでもない気がするが、情報との接し方でいうと、だんだん仙人みたいな生活になってきているような気がする今日この頃であるが、そうなってくると、お前はどうやって自分をUpdateして世の中の最新のマーケティングのトレンドをキャッチアップしているのかという話になる。そんな貴方に、本も読まず、自分で積極的に情報も取りに行かず、座って聞いているだけで勝手に自分がUpdateされていくという素晴らしい勉強方法を紹介する。

その方法は、日々の業務の打ち合わせを可能な限り真剣に、自分毎として聞き、その内容を腹落ちするまで理解するというやり方である。そもそも、自分のチームでデジタルマーケティングに真剣に向き合いPDCAを可能な限り高速で回せるようになってくると、おそらく1-1.5年くらいで世の中で記事になったり、書籍になったりするような事例は大抵遅いと感じるようになる。特に、本になるような情報は、目先のテクニックのようなものになると、スピード感が全く合わない。

また、Ad Tech系の情報については、大抵部下に数名はそちらに強いタイプの人材がいるので、そういうメンバーが良さげなものは手を出したがるので、定例の報告を聞いていれば自然とUpdateされていく。

さらに、ある程度予算を使い、広告メディア企業にアドバンスなアカウント、チームだと認定されてくると、そもそも発表される前の商品情報などが直接入ってくるようにもなる。

たぶん、2015年に日本に帰国して、大手ゲーム会社のマーケティングの責任者になって1年くらいでチームがある程度思い通りにワークするようになってきたころから、私の場合はこのような環境が出来始めてしまったので、自分から積極的に情報を取りに行くインセンティブが殆どなくなってしまった。

こうなると、生来の勉強嫌いが完全に大爆発で、自分で勉強するということが本当になくなってしまったし、周りが迷惑しているのかもしれないが、私個人はそれでも全く困ることがなくなってしまった。

インプット知識を利用するところまでやらないと意味がない

但し、この私の会議で報告を聞いて考えるだけという勉強法を実施するためには、いくつか条件がある。まず、本当に真剣に打ち合わせを聞いて、報告の背景まで含めてきちんと理解するという事である。ただ、「ハイ分かりました。」「いいです/ダメです。」というスタンスで聞いているようであれば、殆ど意味がない。

そもそも、たまに素晴らしい学歴で、バリバリMBAとかで、本もたくさん読んで、情報もいっぱい集めているのに仕事ができない人がいるが、私が思うにそういう人はInputに比重を置きすぎていることが原因なのではないかと思っている。私はビジネスのExecutionとOperationのフェーズというのは基本的にはOutputをする段階なので、記憶としてのInputでは全く不十分で、自分でOutputに使えるレベルまで腹落ちしている、血肉化していることが必要だと思っている。それができる自分の処理能力を越えて、大量のInputをしたとしても、基本的には普段の仕事で使えない知識が記憶に保存されているだけで、業務のクオリティが上がるのに殆ど役立っていないことが多いのだと思っている。

私が、会議を真剣に聞くといっている意味は、このOutputできるレベルまで自分のものにするという意味である。これをするためには、1時間なら1時間の報告を相当真剣に聞かないと、そのレベルまで理解出来ないと思う。まあ、私の能力では少なくてもそうである。

自部署の業務を業界最高水準のマーケティングに引き上げる

2つ目の条件は、自分の部署の業務のクオリティが業界の最高水準まで向上させられていることである。前述のとおり、世の中に出回っている情報のレベルまで業務クオリティが上がっていないのであれば、それは早急にそのレベルまでCatch Upしなければいけないので、お勉強をさぼっている場合ではない。早く、お勉強フェーズを脱することができるように、PDCAの回転速度を真剣に上げていくことが何よりも重要である。ただ、このフェーズをプロセスとして踏むことは必ずしも悪いことではない。そもそもPDCAを精度高く回すためには、マーケティングの基礎体力が備わっていなければいけないし、PDCAを行うための分析環境を整えるなど環境整備も必要である。このお勉強フェーズのうちに、チームが最先端のデジタルマーケティングをできるようにレベルアップして基盤を固めておくことで、最高水準に到達する準備が出来るわけである。逆に、それができていないのに、最先端の知識だけ学んで、Operationに落とし込もうとしても、殆どの場合上手くいかないことが多い。

最後は、部下でも、代理店でも、メディアでも、表に出ていない情報も含めて、最先端の情報をInputしてくれる協力者を周りにそろえておくという環境作りである。この一番手っ取り早い方法のひとつが、ある程度大規模な広告予算があるということで、私の場合はその点を楽天時代から理解していたので、自分が働く場を選ぶ際の選択基準として、この環境が作れそうかどうかはそれなりに優先順位を高く設定するようにしていた。ただ、予算の規模は誰でも実現出来るわけではないので、そのような場合は、まず自社のPDCAを高精度に回して、外部の協力会社候補の人たちに一目置いてもらう、面白い会社だと覆ってもらえるようにするということだと思う。

頑張って「守」から「破離」にステップアップする

よく守破離というが、そもそも本を読んでお勉強するというのは「守」のフェーズであると思っている。もし、自分たちが「守」のフェーズなのであれば、その事実を真摯に受けとめて「守」を卒業できるまでPDCAをグルグル回そう。でも、それをある程度までやってしまうと、必ず世の中に出回っている情報だけでは改善が出来なくなってくるフェーズがやってくる。そうすると「破離」のフェーズである。ここに来ると、おそらく自分で考えるか、さらに上級者のMasterみたいな人か会社を見つけなければ前に進めなくなる。そうなると、日々の業務内容こそがどの文献からも学べない学びの教科書になるわけである。

私の場合は、マーケティングがお仕事というよりも、ほぼオタクの趣味のような位置づけになっているので、そのフェーズに入った案件などは、部下の報告を聞いていると、それだけで楽しくて仕方がない。「ここまで考えても上手くいかないのか。。。」とか、「これとこれを組み合わせると上手くいくなんて想像もしなかった」とかいう感じである。人材育成の話の最後に、楽しむことの重要性を書いたが、そのフェーズになってくると、一生懸命仕事をするだけで成長できるサイクルに入ることができる。実際そのように仕事をしている部下を目の前で何人も見てきた。たぶん、私の部下はきっと私よりも真面目に勉強しているのだと思うが。

もちろん、本やWebの記事を読むことがいけないとは全く思わない。私が申し上げたいのは、本当に自分が成長できる勉強の仕方を、人それぞれ見つけられるといいのではないかということだ。ただ、その時の気を付けてもらいたいのは、InputとOutputのバランスである。もし仕事のクオリティを短期で上げたいのであれば、私はしっかりOutputで使えるレベルのInputの量を自分で見つけられるように気を付けてもらえればと思う。