前回は、よいマーケターを採用するための評価ポイントとその優先順位を採用する人材のタイプ別に確認してきた。今回は、それぞれの評価ポイントを、採用時にどのようにして確認するのかという方法論を考えてみたいと思う。
まず、おさらいで、マーケターの採用時に確認することが必須である6つの評価ポイントを見てみる。もし、前回の議論をお読みでない方は、こちらをご確認いただきたい。
- マーケターとしてのスキル
- マーケターとしての経験
- そもそもの地頭の良さ
- パーソナリティ
- カルチャーフィット
- マネジメントスキル(マネジメントポジションの場合)
以下では。それぞれの評価ポイントの良し悪しを面接等においてどのように判断するかを詳細に見ていきたいと思う
マーケターとしてのスキル & マーケターとしての経験
マーケターとしてのスキルと経験については、同時に確認する。具体的には、職務経歴書の振り返り・自己紹介をしてもらったハイライトの経歴を中心に、具体的な案件の成功事例、失敗事例の話を聞きながら、その内容を深堀して議論を深めることによって、相手のスキルレベルを評価するという方法が経験上一番確実だと思っている。
但し、具体的に過去の事例を話してもらう前の下準備が重要であると思っているので、そちらから先に話したいと思う。正しくマーケターのスキルと経験を評価するためには、なるべく具体的な事例について、突っ込んだ話をする必要があると考えている。このため、面接相手が正しい事例の選択を出来るように、採用側が現状の組織の役割はこのようなもので、現在のメンバーで出来ていること、出来ていないこと、短期、中長期で解決したい課題と、新しいメンバーにその中で果たしてもらいたい役割など、今回のポジションの人材に求められる能力・役割を明確に理解できる情報を事例の紹介の前に説明することが効果的である。例えばこんな感じである。
「当社は、ゲームアプリの集客をパフォーマンスマーケティングを中心に行っている。なお、デジタル広告の運用はインハウスで3年前から行っている。チームは、各メディア企業と強固なリレーションを構築しており、代理店に負けない海外事例も含めた最新の情報をメディア企業から収集し、自分達では、国内においては業界トップクラス、また、海外のトップ企業と比べても遜色のないスキルレベルで運用をしていると考えている。ただ、今後の複数の大型タイトルがローンチを控えており、現状の人員体制ではリソースが逼迫している。基本は新卒を含め内部でメンバーを育成する方針であるが、それでも短期的に追いつかないので、当社のインハウス広告運用チームに短期間でキャッチアップ出来る、若しくは、チームが現在持っていないスキル・経験を持ったメンバーを1-2名程度採用したいと思っている。
現在の課題は、パフォーマンスマーケティングのPDCAはハイレベルで回せるようになっていると自負しているが、長期運用タイトルなどでは、Full Funnelへのマーケティングの拡張を行いたいと思っているが、Upper &Middle FunnelとBottom Funnelの予算や広告の出稿量のバランスがどうすれば最適になるのか、効果検証をどのようにすることが最適なのかということであり、この辺の知見がある方だとさらにうれしいと思っている。」
話としては、架空のものであるが、イメージとしてはこのくらい具体的に自分たちの状況を事前に説明をするようにしている。具体的に自分たちの状況を説明することによって、応募者は入社後に自分が求められている役割が正しく理解でき、自分の経験の何が入社後に活かせそうで、どの部分はこれから学んでキャッチアップしなければいけないのかなどが分かるため、その後の議論の目線が自然と合うという分けである。
採用企業側の正確な状況共有により、両者の目線合わせが完了すれば、次はいよいよ応募者のスキル・経験の確認となる。前述のとおり、私の場合は、方法としてはありきたりであるが、職務経歴の中から、採用ポジションに合致する成功事例、失敗事例をいくつか紹介してもらうことにしている。
その際に、私が見ているポイントは、
- 解決すべき課題・問題点の状況整理が正しく出来ているか?
- 課題・問題点の解決方法の検討のプロセス・ロジックに筋が通っているか?
- 解決策の実行段階での苦労話、エピソードなどからオペレーション実行の精度
- 解決策の効果検証方法、評価KPIの考え方と開示可能な範囲での結果
- 成功・失敗に関わらず施策実施後の継続的な改善活動
この5点くらいである。随分細かく聞くと思われる方もいるかもしれないが、正しくスキルレベルを把握するためには、このくらいの粒度で面接官がディスカッション出来ないと、正しいスキル・経験の評価はできないと思っている。
もちろん、相手も面接で緊張していることも少なくないので、一発で、この5点をすらすらと説明できて、こちらが質問する余地もないということは、そこまで多くはない。しかし、それは別に問題ではなく、質疑応答のプロセスの中で、応募者がこの5点について過去の経験を明確に答えられるかを見ながら、スキル・経験のレベルを確認していくことが出来れば十分である。
これまでおそらく500人以上のマーケターの面接をしてきたと思うが、そのサンプルを基にした私の経験では、この5点について、自分の成功事例・失敗事例について、私の期待値のレベルで答えられるマーケターというのは、5%以下であるのはほぼ間違いがないと思っている。
私は、原因はおそらく3つであると思う。まず、応募者が事業会社のマーケターである場合、ひとつの可能性はその成功事例を実行するプロセスの殆どを事業会社のマーケターである応募者が行ったのではなく、外注した広告代理店が行っている場合である。もう一つの可能性は、事業会社でマーケティングの仕事をしてはいるが、そもそもその会社にスキルレベルの高いマーケターがおらず、まともな教育を受けていないまま見よう見まねでマーケティングをしていて、課題設定やその解決への突き詰め方が浅い場合である。3つ目の可能性は、広告代理店の出身者の場合、3の解決策の実行までは行っていたりするが、4以降の施策結果の評価やクライアント企業内部のKPI情報は開示されておらず分かっていなかったり、施策実施後の改善活動に関わることができずに単発の仕事になってしまっている場合である。
残念ながら、日本のマーケターの置かれている環境は、この3つのいずれかに該当してしまうケースが多いらしく、正しいスキルと・経験を持つマーケターの比率というのは5%程度しかいないというのが実態のようである。
なお、ここまでお読みいただいた方は薄々感じているかもしれないが、このようなスキルチェックを面接で行うためには、面接官の側は当然応募者以上のスキル・経験を有していることは前提である。そうでないと、それぞれの項目の具体例の妥当性が判断できないし、正しい状況の説明を引き出すことも出来ない。スキル・経験レベルの低い面接官が犯すよくある失敗は、応募者が自分で実施したわけでもない、代理店が行ったマーケティング施策の表面的な成功事例を聞いて、この人は凄い華やかな経歴のあるマーケターだとコロッと騙されて採用をしてしまうようなケースである。ただ、私の感覚だと、代理店を使い続けてきた大企業のマーケターなどの場合、それが当然で、マーケティングは業者を使ってやらせるものだ位にしか思っていない人も少なくないので、「騙されて」という表現は正しくなく、説明している側もそれが普通だと思っているのだろうと推察している。ただ、そのような低スキルマーケターの集団ではいつまでたっても、グローバルで戦えるマーケティング組織を作ることが出来ないのは当然であるため、是非まず面接官自身のマーケティングスキル、経験をあげていくことを検討して欲しい。
そもそもの地頭の良さ
地頭の良さは、面接で45分‐1時間話をしていれば、大抵わかると言ってしまえばそれまでだが、基本的には、スキル・経験のチェックを主目的として行う。成功事例・失敗事例の説明がどれだけロジカルに説明されているか?また、一発できれいに説明出来なくても、こちらからの質問に的確にレスポンス出来ているかを確認することによって地頭のレベル感も同時に把握出来ると思っている。
特に、ポテンシャル採用の人材の面接の際は、成功事例・失敗事例の説明が、現時点で必要とされるスキルレベルに達していないことは前提なので、スキルチェックというよりは、どれだけ自分の頭で物事を考えて直面する課題に取り組んできたのかを見ることによって、論理的思考力の確認は出来ると考えている。
1点だけ注意すべき点としては、話が旨い事と、ロジカルに考える事とは必ずしも同じではないということである。たまに、面接慣れしすぎていたり、営業等で面談に場慣れしていて、話は立て板に水のように滑らかだが、よくよく聞いてみるとたいした内容がないような人もいるが、聞く側にスキルがあればこのケースは概ね見抜けると思う。ただ、注意が必要なのは、たまに思慮深く考える余り、言葉がそこまでスムーズに出てこない頭の良いひとがいて、もしその人材がスキル・経験を備えている場合は、5%しかいない貴重な人材なので、見逃さないようにしないといけない。実際、第一印象は「大丈夫?」と思った人材でも、よくよく話してみると非常に頭もよく、採用後に想定以上にパフォーマンスした人材にもこれまで多く出会ってきたので、話の上手さと地頭の良さを混同しないように注意したほうが良いと思う。
パーソナリティ
パーソナリティについても、基本は成功事例・失敗事例の中で見るようにしている。基本的には真面目さ、粘り強くコツコツ努力できる人間か、そのための向上心が高そうかの3点くらいを見るようにしているが、成功事例に対して、何で?何で?を繰り返し聞いてみたり、失敗事例をどうやって克服したかみたいな話をしていると、私が知りたいようなポイントは見えてくる。
経験を見る5項目の中では、3の実行フェーズでの苦労話とその中での粘り強さ、逃げない姿勢、5の継続的な改善活動における深堀、飽きない姿勢などを突っ込んでみると、デジタルマーケティングに向いている人材かどうかがわかると思う。
但し、1時間程度の面接で一番見抜くのが難しいのが、このパーソナリティの部分だと思っていて、私の経験では、採用で「思ったのと違う」となるケースの8割程度は、パーソナリティの弱点を見抜けなかったというケースであると思う。
カルチャーフィット
カルチャーフィットについては簡単で、複数人の目で、一緒に仕事をしたいと思うか、現状のチームに入って、周りの人と一緒に仕事をしている事が想像出来るのかを面接をした全員で合議して結論づけるのが良いと思う。
ちなみに、私は面接は1対1で行うことはほとんどせず、2-3人程度の面接官で行うようにしている。少なくとも、自分の部署に入れる人間は本部長である自分と、実際の管理責任を負う自分の配下の部長級の人間と一緒に会うことは原則としていて、例え私がこの人材は良いと思った場合であっても、より近くで働く部長が懸念を述べたらそちらの意見を優先することにしている。結局ダイレクトにマネジメントする人間の意に沿わない人材を無理にチームに入れたとしても、結果的に皆がハッピーになることは少ないと考えているからである。
もちろん自分の直下の人間というのは、私が信用できると思っている人間を選んでいるし、ポジションに求められるスキルも持っている人間なので(もしその適任者がいなければ、可能な限り私自身で繋ぎの兼務をしてでも良い人材を探す方がよいと思っている)、殆どの場合、一緒に面接して意見に相違が出るのは、スキル・経験・地頭ではなく、パーソナリティとカルチャーフィットであるが、この点については、面接官全員で同意見にならない人材はよほどリソースに困っていない場合を除いて、採用しない方がよい。大抵、後で組織内のマネジメントで問題が発生するのは、採用時のこのあたりの小さな妥協に起因していることが多い。
マネジメントスキル(マネジメントポジションの場合)
マネジメントについては、上手くいく方法論など話してもらっても、教科書的な答えしか返ってこない事が多い。ここ最近でIT系の会社でマネジメント経験がある人によいマネジメントの方法論の話をすると、前にも言ったように、私の嫌いなOne on Oneを小まめにやりますみたいな回答が返ってくることが多い。
私はマネジメントというのは、人と人の問題なので、そんなに簡単な成功法則などなく、どれだけ経験を積み、難しいシチュエーションに直面し、それを失敗しながら、苦労しながら乗り越えてきたかの蓄積でしかないと思っている。このため、マネジメントのスキルの話を聞くには、断然、成功事例<失敗事例を具体的に聞くことが良いと思う。成功事例の教科書的な正解をきれいに話すことが出来るが、失敗事例が述べられない人は、大抵の場合、マネジメントをしたことがないか、マネジメントで苦労したことがない、人に興味がない人が多い。
ここまでで、良いマーケターを面接等で見抜くための具体的な方法を説明してきたが、ハッキリ言うと、この文章を読んだから明日から失敗せずに良いマーケターの選考が出来るのかといえば、必ずしもYesとは言えない。なぜなら、採用時の選考というのは、多くの人を採用して、その人の面接時の評価と、入社後のパフォーマンス、採用時に見抜けていたポイントと、採用時には分からず入社後に問題になったことなど、多くの人材を面接し、採用し、入社後評価するという経験の蓄積と、それぞれの人材の相対的な比較において、自分なりの基準値が出来てくるというのが実態だからである。
この2回の議論でお伝えしたかったことは、その経験値を自分の中に蓄積していくための情報整理のフレームワークと、各項目を評価する方法論のようなものであると考えていただければと思う。
マーケターという職業は専門性の高い職種であるため、組織の成熟が進めば進むほど、外部から良いマーケターを採用することは難しくなる。特に、会社の知名度と自分のマーケティングチームの業界内でのポジションに差がある(マーケチームのポジションが高い)場合には、その状況は加速度的に強くなる。しかし、だからこそ、組織を円滑にマネジメントするためには、採用での成否は非常に重要である。必要なスキルを持っていない人を採用してしまうのは論外であるが(とはいえ、世の中見ていると結構多い)、特にパーソナリティ、カルチャーフィットに問題がある人材を採用してしまうと、その後何かと苦労することが多い。なぜなら、新卒は別にして、それなりに社会人としての年月と経験を重ねた人材というのは、大なり小なり自分がこれまで積み重ねた経験とパーソナリティが複雑に絡み合ってしまっているので、良い意味でも悪い意味でも入社後に簡単に変わることが出来るわけではないからである。ぜひ、自社の組織にフィットする、良い人材を見抜く目を養っていただければと思う。