500人以上のマーケターの面接経験から
マーケティングに関わるトピックでこれまで触れていない項目として、採用について書いていないなと思ったので、その点についても少し議論してみたいと思う。
まず、大前提として、良いマーケターの条件については以前詳細に議論したので、こちらを参照していただければと思う。このため、今回は見極めるべき資質については所与の条件として議論に入れずに、それを面接等で見抜く方法のアイディアを考えてみることにしたい。ただ、これも私なりのやり方であって、もちろん唯一の正解であるわけではないので、ひとつの考え方として捉えていただければと思う。
ただ、この話をするうえで、私にどのくらいマーケターの採用の経験があるのかの情報をご提供しないと、信用出来るのかどうかという話になると思うので、これまでの採用経験から少し話したいと思う。
まず、私がこれまでマネジメントした最大の組織は、大手ゲーム会社におけるマーケティングのグローバルの本部組織である。組織として100人前後の組織であったが、私の赴任当時は、基本的には任天堂やプレイステイションのハード向けの家庭用ゲームソフトの国内向けオフラインマーケティングのマーケターが3分の2位の割合で、その組織を①デジタル中心のマーケティングチームに作り変えることと、②グローバルのマーケティング統括組織にグレードアップさせることが大きなミッションであった。もちろん、オフライン中心からオンライン中心に変えたいからと言って、3分の2近くの人間を入れ替えるわけにもいかないので、中心的な課題は、今の言葉でいうリスキリングをしてもらうことによって組織改編をしていくことであった。しかし、ちょうどモバイルアプリのタイトルのヒットコンテンツが出だして、扱う商品数が増大していたこと、本格的なグローバル展開の大型タイトルが複数本発生して、グローバルのマーケティング体制を構築する必要性に迫られたことなどの理由で、本部長職にあった5年半の間、少なくても週に1人以上の候補者の面接をしていた。つまり、5年ちょっとで年50週×5年としても、250人程度のマーケターの面接はしていたことになるので、20年以上のマーケターのキャリアで言えば、500人程度はおそらく面接をしてきたと思う。ちなみに、何でそんな数になるのかといえば、私は100人程度の組織であれば、自分の組織で採用する人材には例外なく必ず面接することにしているため、そんな人数になってしまうという背景もある。
ちなみに、そのうちどのくらいの割合で採用していたかといえば、ゲーム会社でいえばおそらく20人にひとり位のイメージなので、合格率は5%以下だと思う。そして、これも感覚的な話になってしまうが、同じゲーム会社で採用した20人程度をサンプルとすれば、採用した後で、全然違った、失敗したと思ったのは、2-3人であると思う。それ以外は、面接時の想定通りの人材であったか、期待以上の人材であったこと思うので、少なくてもマーケターの人材を評価するという事で考えれば、自分では9割程度の確率で正しい評価をするスキルを持っていると自認している。
マーケターの面接の評価ポイント5+1
という経験を基に、今回は面接にて良いマーケターを見抜く際に考えなければいけないことを整理して考えたいと思う。
まず、私が面接をするにあたって人材を評価するポイントは次の5点プラス1である。
- マーケターとしてのスキル
- マーケターとしての経験
- そもそもの地頭の良さ
- パーソナリティ
- カルチャーフィット
プラス マネージャー以上のポジションの場合は、
- マネジメントスキル
それぞれについて考えてみよう
- マーケターとしてのスキル
マーケターの基礎体力を始め、採用する人材に求めるマーケターとしてのスキルレベルについては、当然応募ポジションによって詳細は異なる。
- マーケターとしての経験
経験については、職務経歴書に記載されている内容という事ではなく、「その一つ一つのキャリアにおいて、どのくらいの深さで考え、学び、使えるスキルまで昇華させられているか」をここでは経験と定義する。単に「やったことがある」というのは経験にカウントしない。詳しくはこちらを参照。
- そもそもの地頭の良さ
デジタルマーケティングは、ロジカルでデータドリブンな業務であるため、当然物事を論理的に考えられる一定以上の地頭の良さは残念ながら必須条件である。ただ、決して学歴で判断するようなことはしない。
- パーソナリティ
パーソナリティについても、詳細は先に挙げた良いマーケターの資質についての以前の議論を確認いただきたいが、デジタル時代のマーケターに必要とされるパーソナリティも一定存在するため、そこから大きく外れていないことはチェックする必要がある。
- カルチャーフィット
どんなに優れたマーケターとしての能力があったとしても、一緒にチーム内で働く人間として、会社組織、マーケティング組織にフィットしそうな人材かどうかは慎重にチェックをするべきである。
- マネジメントスキル
優れたマーケターになることと、優れたマネージャーになることは全く異なるスキル要件である。このため、採用ポジションがメンバーのマネジメントを要する場合は、マネジメントスキルについても見極める必要がある。
評価ポイントの優先順位を決める
ということで、マーケターの採用時の評価ポイントについての理解は出来たと思う。そのうえでまず最初に考えなければいけないのは、各評価ポイントの優先順位についてである。もちろん理想はすべての項目が10点満点の人が5%程度の確率で面接に来てくれるのことであるが、残念ながら私がこれまで働いてきた会社では、その様な贅沢な環境は構築出来なかったので、採用するポジションと組織の状況によって評価ポイントの優先順位を変えて人材の評価をすることになる。
- 採用ポジションの組織が成熟しており、人材の教育を出来る場合
- 採用ポジションの組織が会社としてスキル不足で外部人材に組織自体のスキル向上を期待する場合
- 組織マネジメントを伴うポジションの場合
大別すると、この3パターンで考えればよいと思う。
採用ポジションの組織が成熟しており、人材の教育を出来る場合(ポテンシャル採用)
カルチャーフィット > 地頭の良さ > パーソナリティ > スキル・経験
残念ながら、日本のマーケターの人材プールには、私の基準で優秀だと思うマーケターがそれ程多くいないため、組織がある程度成熟してきて、人材育成が行える体制になっている場合には、必死になって経験者を探すよりは、スキル・経験は足りなくても、入社後に教育する前提で採用する方が早いし、強い組織になるスピードが早いことが多い。このため、私の経験では、発生するパターンが最も多いケースである。
この基準で人材を採用する場合の評価ポイントの優先順位は上記の通りである。まず、これは、すべてのポジションに共通であるが、カルチャーフィットは最も優先して評価するポイントである。どんなに地頭がよかろうと、パーソナリティがマーケター向きであろうと、組織カルチャーにフィットしないと感じる人材は、決して採用してはいけないというのが20数年マネジメントしてきた結論である。これは決して妥協してはいけないポイントである。なぜなら、カルチャーにフィットしない人材を雇ってしまうと、入社後にチームとして機能せず、そのスキルであれ、経験であれ、地頭の良さが結局は発揮されなくなってしまうからである。
次に重視すべきは、「地頭の良さ」である。スキル・経験が不足しているということは、入社後のトレーニングの吸収スピードでその人材のパフォーマンスは変わってくるので、早いスピードで成長できそうな人材であるかどうかはポテンシャル採用の重要な評価ポイントである。
3番目の評価ポイントは、パーソナリティである。これはマーケターの資質の整理の際も指摘したが、デジタルマーケターには粘り強くPDCAを回し続ける根気強さを始めとした性格要件が必須であるため、単に地頭がよいというだけでは採用することが出来ない。但し、ポテンシャル採用人材は、高い成長スピードを優先して考えたいため、採用緊急度がよほど高くない限りは地頭の良さをパーソナリティよりも優先させたい。
最後がスキル・経験であるが、これは入社後のトレーニングを前提とした採用であるため当然である。
採用ポジションの組織が会社としてスキル不足で外部人材に組織自体のスキル向上を期待する場合
カルチャーフィット > スキル・経験 > 地頭の良さ・パーソナリティ
チームに新しいファンクションを立ち上げる際に、そのスキルと経験がある人材が社内におらず、外部からスキルを移転して、成長速度を加速したいというパターンが本ケースである。私が経験した例でいえば、マーケティング組織内にデータアナリストチームを作ろうと思ったときに、社内に適したスキルがある人材がおらず、内部人材のトレーニングで行う時間的な余裕もない、時間がかかりすぎるというようなケースである。
カルチチャーフィットは前述の通り常に最上位の優先順位であることは揺らがないので、2番目から考えると、当然このケースにおいてはスキル・経験ということになる。外部からスキル・経験を移転するための採用であるため、当然の優先順位である。但し、このケースで問題になるのが、そもそも社内にスキル・経験がないから外部から人材採用をする状況下で、面接等において正しいスキル・経験のチェックが出来る人材が社内にいるのかということである。私自身の失敗経験も含めて、にわか知識で、スキル・経験の評価をして失敗だったというケースが若いころに何度か経験としてある。この問題を解決するためには、短期間でも良いので、外部のコンサル等に一緒に採用すべき人材の評価をしてもらうことをお勧めする。もちろん、強化したいファンクションの重要性によってかけられるコストも異なると思うが、人材紹介会社に高いお金を払って、結果的に失敗したというようなことにならないように、お金をケチらずに評価する目のレベルアップを検討すべきだと思う。
本パターンの採用においては、地頭の良さ・パーソナリティの優先順位は当然落ちることになる。但し、これは必ずしも地頭の良さ・パーソナリティがポジションにフィットしていなくてよいという意味ではなく、必要とされるスキル・経験を持っていると評価出来る人材であれば、当然それらを習得す段階で、その習得に必要とされる地頭の良さや・パーソナル要件は持っているはずと想定されるからである。その意味では、繰り返しになるが、スキル・経験の評価を正しく出来ることが、良い人材を採用するための必須の条件となる。
組織マネジメントを伴うポジションの場合
カルチャーフィット > スキル・経験・マネジメントスキル > 地頭の良さ・パーソナリティ
現場メンバーの採用ではなく、最初から部下を持つようなポジションに人材を採用するケースである。このパターンで判断が分かれるポイントは、スキル・経験とマネジメトスキルのどちらを優先するのかという事であろう。もちろんここはチームの状況によるが、私個人は、外部からマネジメント人材を組織に入れる場合は、担当するファンクションに対するスキル・経験レベルが、現在の所属メンバー以上にあることは必須条件だと思っている。なぜなら、マーケティングというのは、以前に述べたように専門性の高いビジネス領域であるため、メンバーひとりひとりが高い専門性を有した組織になっている(なっていなければならない)。このため、その組織をマネジメントする人材は、彼らの業務の意思決定を行ったり、適切なアドバイスを行ったりしなければならない。そのためには現場社員以上の経験値とスキルが要求されることはある意味当然である。私の経験では、チームのスキルレベルが高くなればなるほど、外部から採用した人材のスキル・経験レベルが低いと、どんなにマネジメント能力が高くても現場社員から信頼を得ることが出来ない(ストレートに言うと馬鹿にされてしまう)。私のマネジメントする組織でその様な状況が発生したケースは殆ど記憶にないが、残念ながらそもそも会社内部にマーケティングが出来る人材がおらず、正しい評価が出来ないという前述ような会社が無理やりCMOをエグゼクティブサーチ会社経由で採用したりすると、ポジションとスキルがフィットしていないなどの理由で、指摘したような状況になるケースを何度も見てきた。
一方で、マネジメントスキルがない人物を組織のトップに据えることは、マーケティングに限らず悲惨な結果になることは、議論する余地もないことなので、今回は、スキル・経験・マネジメントスキルを同列の優先順位とした。
ここまでで、採用するポジションのパターン別に優先すべき評価ポイントをご理解いただけたと思う。次回は、各評価ポイントを採用面談においてどのように確認・評価するかを考えたいと思う。