2軍監督の役割

2軍選手を怪我する一歩手前まで練習させる分け

野球Youtubeから好きな話第2弾。たぶん、僕くらいの歳の人でないと古すぎて全く知らない選手だと思うが、昔広島の一番バッターで高橋慶彦という選手がいた。スイッチヒッターで、足が速くて盗塁王になったりと、子供心にかっこいい選手であった。もとヤクルトの古田のYoutubeとかを見ていると、当時の野球界では高橋慶彦伝説がたくさんあったらしく、相当怖い触れてはいけない選手として恐れられていたらしい。まあ、そんな話もそれはそれで面白いのだが、別に野球の話をする場所でないので、本題に移る。

彼の話の中で、私が素晴らしいなと思った話が2軍監督の仕事について話していた内容である。2年くらいロッテの2軍監督をしたらしいのだが、その時若い選手に無茶苦茶厳しく練習をさせたということだ。そもそも高橋氏本人も現役時代は相当な練習量で有名で、いつもバッティング練習していると周りの人から見られているような選手だったと後輩の選手が証言している。体技心の話ではないが、彼も結局練習しなければ上手くもならないし選手としても大成出来ないと思っているそうだ。もちろん、そういう思いから厳しい練習を課すわけであるが、それをやり通した理由というのが素晴らしいと思ったのだ。

高橋氏が当時考えていた2軍監督の役割というのは、野球をやめていく選手に後悔させないことだと思っていたそうだ。毎年秋か初冬になるとプロ野球選手の引退とか、戦力外通告がスポーツニュースをにぎわすが、プロ野球球団というのは支配下に登録できる選手の数の上限が決められており、基本的にはその上限からあふれてしまった選手は契約を更新されないという仕組みになっている。新しく選手になる方は毎年ドラフト会議で華やかな話題となり、1球団6,7人の選手がプロ野球選手になるわけだが、逆にいえば、それと同数の選手が野球選手をやめなければいけない厳しいトコロテン方式の組織なわけだ。ではその6,7人の選手がプロ野球選手をやめなければいけないなかで、「引退」と呼ばれるように自分でやり切ったと自発的に選手をやめられる人がどのくらいいるかといえば、おそらく一人いるかどうかという確率で、大半の人は野球を続けたいのに続けられなくなる状況になる。

プロ野球の2軍選手が直面する厳しい現実

野球選手になるのは18-25才くらいなので、プロ野球選手をやめざるを得なくなるのも多くの場合20代の中盤から後半の若者である。そのあとも、社会人として長い人選を歩んでいかなければいけない。そのような厳しい現実を考えた時、高橋氏が2軍の責任者として考えていたのは、分かりやすく言えば「クビ」になったときに、その選手がどう自分のプロ野球人生を振り返ることが出来るかではないかと話していた。「これだけ全力でやり切ったのだからしょうがない」と思うのか、「こうなるのであれば、もっと頑張れば良かった」と思うのかということである。当然、前者であってほしいわけだ。

プロ野球というのは、周りに超高額の年俸をもらっているスター選手がいるような華やかな世界で、20代の若者には誘惑も多い世界である。勘違いしてしまいそうなシチュエーションもあるであろう。入団時の契約金など考えれば、1軍の選手ほどでなくても、周りの若者よりはお金もあるであろう。しかし、2軍の選手というのは残念ながらプロ野球という組織においてはその時点では全く事業貢献も出来ておらず、分かりやすく言えば、入口に立っているだけで、プロとして一人前に成れていない中途半端な存在である。

その彼らの中から、ほぼ確実に5名前後の選手がその年の年末に解雇される。大体2軍選手の人数というのは30人前後である。その中から5-6人が解雇される。そういう厳しい世界だと言ってしまえばそれまでだが、この話を聞いたとき、もしそれが自分の部署であったらと想像すると、高橋氏の話している気持ちが物凄くリアリティを持って感じられてしまったわけだ。

マーケターにも2軍選手のように練習量は必要!

間違いなくこういう話をすると、昔気質のオッサンと嫌がられるのを承知で言うが、ワークライフバランスが重視される昨今の日本社会で、本当に強く、スキルの高いビジネスパーソンが育つのか心配になることが多い。もちろん長時間残業すれば良いとは全く考えていない。その点は以前、作業=経験ではないという話をしたので、ご理解いただけていると思う。しかし、スポーツの反復練習と同じで、ビジネス、少なくても私の専門分野であるマーケティングにおいては、反復練習の数を増やして経験値を高める機会は必ず必要である。それをワークライフバランスの名のもとに機会として奪ってしまっている。もちろん、そのような働き方をしたくない人に強要することはあってはならない。その対策は当然行うべきだと思う。でも、上位何パーセントかの社会を背負って立っていかなければいけない若者たちから、自分を追い込んで成長させる機会まで奪ってしまってよいのであろうか?多くの私と同年代のマネジメントが悩んでいると思うが、この高橋氏の話を聞いているともっと真剣に考えなければいけないのではないかと思ってしまう。

最近の新卒の学生の子を見ていると、間違いなく自分のころより大学時代にお勉強しているし、真面目に考えていて、優秀な子も多い気がしている。だからこそ、この子たちをちゃんと一人前にしてあげるのは。2軍監督の役割を担う大人の責任なのではないかと思うのだ。

また、逆に、トップレベルのマーケターになりたいと思う若いマーケターに伝えたいのは、社会に奪われてしまった自分を鍛える機会をどのように自分自身で補完するのかを考えなければいけないのではないかということだ。特に、マーケティングの基礎体力となる「誰に、何時、何を伝えるか?」を考える力を蓄え、他の人よりもスピーディーに正解にたどり着くためには、どれだけこの作業を数多く深く経験し、様々なシチュエーションにおける成功例、失敗例を自分の中にストックしておけるかが重要である。それが必要ないのは、一部の天才的なマーケターだけである。ハッキリ言って、私などはそのストック量の多さだけを頼りにマーケターとして生きているようなものである。

30代中盤で気が付いてもおそらく手遅れ?

別に遊ぶなとは言わないし、寧ろ、リフレッシュのために遊んだ方が良いと思う。しかし、次のことは理解しておかなければいけない。ビジネスの世界、特に日本の労働環境というのは、一見プロ野球ほど直ぐにクビになったりしないので厳しくなさそうに感じられるかもしれない。ただ、それは、クビにならないという点がシビアでないだけで、実は能力の評価というのは確実にされている。若いころはそれほど差を感じないかもしれないが、30代中盤くらいから、出来る人と出来ない人の選別が結構シビアに進んでくると思う。前にどこかで話を聞いた人事の研究者みたいな人は日本の大企業では45歳くらいで急激にハイパフォーマーとローパフォーマーの差が出ると言っていたが、私がいたようなデジタル系の企業では10年は早く選別されると思う。そして、2軍のプロ野球選手がクビになってしまったら、ほぼリカバリー不可能なのと一緒で、ビジネスの世界でも、この選別が始まった時点で気が付いてリカバリーしようと思っても、ハッキリ言ってほぼ不可能である。プロ野球は数年の努力の結果での判断だが、ビジネスの場合、30代半ばと言えば、10年以上のビジネス経験で蓄積された差を判断されているのであるから。このように考えれば、実は早くアラートを上げてくれるプロ野球の方が実は優しいのではないかとすら私など思ってしまう。

50歳になりそうなおじさんが、60代半ばくらいのおじさんの話を聞いて感心した話なので、ずいぶん爺臭い話になってしまったが、最近の若者に優しくする社会だと、口頭ではなかなか言えない話なので、あえてこんな話をしてみた。

自分も含めて、「こうなるのであれば、もっと頑張れば良かった」と思わないようにできればなと思う今日この頃である。