マーケ組織内の分化手法1:ファンクション別組織

マーケティング組織内の分化パターン2種

ここまでで、まずはマーケティング組織の会社全体の中での位置づけというものを考えてきたが、それが決まったとして、次に考えるべきはマーケティング組織内の役割分担をどのようなロジックで作っていくのかという点である。本項での議論の前提は、一つの会社やマーケティング組織が複数のサービスやブランドのマーケティングを担うケースなので、もし自分の会社が1サービス1ブランドしか提供していないという場合は読み飛ばしていただいて構わない。

ここからの議論は、具体的な例として、ゲーム会社の集約・セントラライズ型マーケティング組織を例に考えてみることとする。

それなりの規模のゲーム会社になれば大抵の場合、1社1タイトルということはほとんどなく、多くの場合複数のタイトルを並行して開発、運用していることが殆どである。

このため、集約・セントラライズ型のマーケティング組織は、当然同時並行で、複数タイトルのマーケティングを走らせなければいけない。

では、それを実現する組織をどのようなフォーメーションで作るべきなのだろうか?

それを考えるうえで、まず理解を共通化し、具体的にイメージしやすいように、1タイトルのマーケティングをするのに必要な機能(ファンクション)について整理してみよう。最近であれば、下記のようになる。

  • タイトルのマーケティングプランの作成と全体ディレクション
  • デジタル広告
  • インフルエンサーマーケティング
  • コンテンツマーケティング
  • CRM・既存ユーザー向け施策
  • PR
  • オフラインイベント
  • データ分析

それなりに成功しているタイトルで考えると、ざっと挙げてみるとこんな感じではないだろうか?ここで、読者の方に考えてもらいたい。この8つの機能を同時並行で5タイトル走らせるためには、どのようなマーケティング組織を作らなければいけないだろうか?

理論上は2つのパターンが考えられる。①ファンクション別組織、②ブランド(この場合はタイトル)別組織である。ファンクション別組織というのは、マーケティング組織の直下にディレクションチーム、デジタル広告チームなどのように、各機能に特化したチームを組成する組織形態となる。一方ブランド別組織というのはマーケティング組織の直下にブランド毎にチーム分けをして、その各チームが上記の8機能のすべてを担う組織形態を想像してもらいたい。話としてはファンクション別組織が会社全体の集約・セントラライズ型組織に近く、ブランド別組織が分散型組織に近いと考えてもらいたい。

組織論というのは、基本的に絶対的な正解があるわけではなく、各企業・組織の課題や状況に応じて正解が分かれるため、今回もそれぞれの2パターンそれぞれのメリット・デメリットを考えながら、どのような組織にどちらのパターンがフィットするのかを考えていきたい。なお、前述のとおり、この2パターンは会社全体の組織の2類型と基本的な考え方は似ているため、被る部分は省略、簡略化して記載するので、そちらを読んでいない方は、事前に読んでおいていただきたい。

ファンクション別組織

  • メリット
    • 各ファンクション毎の専門性が高めやすい
    • 専門スキルの人材育成が行いやすい
    • 各ファンクション担当者がブランド掛け持ちをすることで全体人数を抑えられる
  • デメリット
    • 各ファンクションを取りまとめるディレクション担当の負荷と要求されるスキルが高い
    • 各ファンクション担当のブランドへの理解が低くなりやすい
  • 向いている組織状況
    • 各ファンクションのノウハウが確立されていない
    • マーケ組織人員のスキル・経験が十分高くない
    • マーケティング組織全体の人員数が十分に確保出来ていない
  • 実施できる条件
    • ファンクション取りまとめのディレクション担当にスキルが高い人材を充てられる

ファンクション型組織のメリット

  • 各ファンクション毎の専門性が高めやすい
  • 専門スキルの人材育成が行いやすい
  • 各ファンクション担当者がブランド掛け持ちをすることで全体人数を抑えられる

集約・セントラライズ型組織の場合と同様に、ファンクション型組織の利点は、各ファンクションの人材を一か所に集め、ノウハウと情報を一元的に共有することが可能なため、各ファンクション毎のスキルの向上スピードが上げやすいことが、最大の特徴とある。また、一人のファンクション担当者が複数のタイトルを同時並行で担当することで、あるブランドの成功事例をスピーディーに別のブランドに横展開できるというメリットもある。さらに、一人の人材が集中的に一つのファンクションに対して経験を積むことが出来るため、人材育成のスピードも早くなるというメリットも実現しやすい。

ファンクション別組織のデメリット

  • 各ファンクションを取りまとめるディレクション担当の負荷と要求されるスキルが高い
  • 各ファンクション担当のブランドへの理解が低くなりやすい

ファンクション型組織の最大の課題は複数チームに跨るメンバーを集約してブランド毎のオペレーションを回さなければいけないため、ブランド毎の統括者・ディレクション担当者に高いスキルが要求されることになる点である。さらに、ファンクションチームの各メンバーは複数のブランドを兼務することになるため、ブランド特化型の組織よりもブランドへの理解が低くなる傾向になる。この問題点は、集約・セントラライズ型マーケティング組織では、事業部側から特に問題視されやすい事項であるため、特に注意が必要となる。そのような問題を顕在化させないためにも、全体のディレクション担当者には事業側との相互理解を高めるためのスキルが要求される。

ファンクション別組織が向いている状況

  • 各ファンクションのノウハウが確立されていない
  • マーケ組織人員のスキル・経験が十分高くない
  • マーケティング組織全体の人員数が十分に確保出来ていない

メリット、デメリットを読んでいただいても理解してもらえると思うが、この組織体系は発展途上であったり、少人数のマーケティング組織において機能しやすい組織形態である。短期間で専門性の高い人材を育成しやすいため、将来的なブランド別組織への以降の前段階の組織体系としても機能する。

ファンクション別組織が実施できる条件

  • ファンクション取りまとめのディレクション担当にスキルが高い人材を充てられる

繰り返しになるが、このファンクション型組織が成功するための条件は、ディレクション担当に良い人材がアサイン出来るかどうかが最大のポイントとなる。もし良い人材がいない場合は、マーケティングの責任者クラスがある程度コミットして、全体を機能させるなどの工夫が必要になる場合もある。事実、大手ゲーム会社在籍時、グローバルブランドの全体のディレクションを出来る人材の要件が高すぎて、私自身がその役目をやらざるを得ないケースなども存在した。