仕組化の徹底

楽天グループで徹底される「成功の5つのコンセプト」

楽天グループでおそらく最も重視されている考え方、仕事をする上での姿勢を表す基本原則のようなものに「成功の5つのコンセプト」というものがある。私の記憶では1999年のどこかのタイミングで三木谷さんが自分で纏めて社員に提示したものである。

現在は分からないが、私が在籍当時は当然のように社内にはポスターが掲示され、社内表彰などもこの5つが重視され、とにかく事あるごとに意識づけをさせられたので、数年間楽天で働いた経験がある人であれば、覚えようと思わなくても空で言えてしまうくらい徹底的に叩き込まれる内容である。

当然、新卒であのような強烈な経営者のもとで仕事をさせてもらった私のような人間は洗脳に近い刷り込みが行われた感じだったので、今でも仕事をする上での重要な基本スタンスだと思っている。楽天を離れて10数年が経つが、今振り返っても、この5つの項目については、お世辞抜きで本当に重要だと思っているので、洗脳してくれてありがとうと思っている。

(もし、詳細を知りたいという方は、三木谷さんの最初の著書であるこちらをお読みください)。

仮説→実行→検証→仕組化

で、今回はこの中からひとつを取り上げる。それは、

仮説⇒実行⇒検証⇒仕組化

である。実は、この5つのコンセプトの中で最初に出来た時から1点だけ変わったポイントがこの項目で、最初は「⇒仕組化」の部分がなかった。この仕組化が後から付け加えられたのである。私は、このBlogの中で一貫してPDCAの高速回転という話をしているが、仮説⇒実行⇒検証というのはほぼPDCAと同義である。最近は英語化されたので、PDCAという方が分かりやすいのかもしれないが、私が楽天で仕事をしている当時は、社内でPDCAという言葉は余り使われず、この言葉が使われていた。

そこにある時「仕組化」が追加された。切っ掛けは知らないが、ある時三木谷さんに呼ばれて、成功の5つのコンセプトのポスターに「仕組化」を加えてほしいと指示された。なぜ私に話が来たのかといえば、そのポスターのデザインを私のクリエイティブチームが作っていたからである。時期は忘れてしまったが、2000年代の前半だと思う。

私はこの「仕組化」という考え方は、素晴らしい考え方であり、ビジネスが拡大するうえで不可欠な考え方だと思うので、今回はこの仕組化の重要性について話したいと思う。

そもそも、PDCAでも、仮説⇒実行⇒検証でも、どちらでも良いのであるが、このプロセスは何のためにあるのであろうか?それは一言で言ってしまえば、「現状を改善するための試行錯誤のプロセス」という事である。現状何か問題があったり、行き詰っている課題があったりしたときに、改善策の仮説を立て、その検証を行うというサイクルを正解が見つかるまで何度も回すということを表現している言葉であると思う。

ただ、このPDCAのサイクルにはひとつだけ問題がある。このPDCAだけでは改善活動が無限にループしてしまうということである。ビジネスというのは基本的に永続的に成長していかなければいけない(残念ながら、そうしないと会社がつぶれてしまうので)宿命を負っているため、このプロセスには終わりはないという意味では、PDCAの無限ループはある意味正しい。しかし、PDCAのサイクルだけではあることが実現しない。それは、何かといえば折角見つけた問題解決の方法、成功の法則が拡大再生産されないのである。

私はある事業が拡大・成長していく基本原則は成功法則の拡大再生産であると思っている。では、成功法則の拡大再生産が起こる原理とは何であろうか。①成功法則が発見される、②成功法則の再現方法が発見される、③再現方法を発見者以外の人間が同様に再現できるように定型化する、④再現できる人間を増やす。この4つのステップ実行されることで成功法則の拡大再生産は実現すると考えられる。そして、このプロセスの②~③が仕組化のプロセスで、④をオペレーションと呼ぶのだと私は考えている。

PDCAと仕組化のバランスを考える

このように考えると、さんざんPDCAと言っているが、事業が成功するためには実はPDCAだけでは足りないということがわかる。なぜなら、PDCAのサイクルというのは成功法則の発見という①のプロセスを実現するための方法論であるからだ。とすれば、私は三木谷さんが「仕組化」を追加したことは凄く的を得た提案であると思う。このプロセスがなければ、ビジネスは拡大していかないのだ。

PDCAを回していて良い結果が得られたとき、私のチームでの打ち合わせで次に必ず議論のポイントになるのが再現性である。再現性を得るためには、成功したときに、何故その施策が成功したのかのロジックが整理して理解されなければならない。なぜなら、そのロジックを理解できないと、次に同じことをしようと思ったときに、どの部分を前回と同じにすべきで、どの要素は真似なくても良いのかが分からないからだ。

これまでの経験上、人間は上手くいっていないときの原因究明は力を入れてするが、上手くいっているときの原因究明は疎かにしがちである。しかし、事業の拡大には、間違いなく成功事例のロジックを明確に理解することの方が有意義である。寧ろそれがなければ再現性のある、成功法則の拡大再生産は実現できないからだ。是非、成功したときに、結果オーライでHappyになるのではなく、その時こそ成功の原因を究明し、成功を拡大再生産出来るようにしてほしい。

仕組化とPDCAの関係でいうと、もう一つ注意すべきポイントがある。それは、PDCAの回転のループをどの時点で一時停止し、仕組化/拡大再生産に移行するかの見極めである。PDCAの高速回転といっても、実際には下記のようなプロセスでビジネスの改善は進んでいく。

PCDAの高速回転 ⇒仕組化 ⇒PDCAの高速回転 ⇒仕組化・・・

要は、PDCAをある程度回転させて成功法則が得られた後でそれを仕組化して事業を拡大させ、そのあとで再度オペレーションの中で出てきた課題に対してPDCAを回していき、改善の方法を探っていくというサイクルである。

幾ら仕組化が重要であるといってもPDCAの1サイクルごとに仕組化の作業をしていてはPDCAの回転速度が遅くなってしまう。かといってPDCAを永遠に回し続けていても事業成長が起こらない。このため、PDCAの回転回数と仕組化のプロセスに移行するタイミングのバランスを取る必要があるのである。

ただ、話を振っておきながらこういうのも申し訳ないが、そのバランスの見極め方法を一般論で述べる方法が思い浮かばないので、そこは試行錯誤してもらうしかない。ただ、PDCAと仕組化のバランスを考えなければいけないというポイントを理解して、マネジメントをする際に意識するだけでも、事業の成長スピードを上げるためには意味があると思っている。

3年くらいの事業改善プランから逆算して仕組化タイミングを見極める

しかし、さすがにそれだけだと無責任だと思うので一般論とまではいかないが、私が普段意識している方法をご紹介して仕組化の議論を終わりにしたい。私が事業活動の中で仕組化に乗せるタイミングとして意識しているのは、1年の事業計画と3年の事業計画で、自分のチームがどの程度まで改善しなければいけないのかを常になんとなく意識しながら、この成功法則を仕組化したら、今年1年分の改善量は稼げるかな?Yesであれば、じゃあ3年後は?みたいな視点で考えている。例えば、他の改善で1年分の目標達成が実現していて、目の前の課題は3年計画の後半で効いてくれば良いと判断出来れば成功確度を上げるためにPDCAをもっと洗練させようとなる。逆に、このままでは今年度の改善量がまだ足りないということであれば、目の前の少し小粒の成功も拡大再生産のフェーズに移行させなければいけないと判断するかもしれない。

1年後、3年後の計画を達成するために、私は複数の武器を仕込んでおいて、例えば10ある武器の6-/7個くらいが上手くいけば計画を実現できるみたいな考え方を何時もしている。別にずっと考え続けているわけではないが、日々の打ち合わせをする中で、自分の頭の中でその10個くらいのどれが短期的に優先順位が高く、どれが中長期的な施策なのかの色分けはしているはずである。もしそれが出来ていれば、短期施策は当然短期的に成果を出さなければいけないので、仕組化になるべく早い段階で取り組まなければいけない。もちろん短期施策に分類している段階である程度仕組化の目途まで行かなくても、萌芽くらいは見えているであろうから、それは可能でなければならない。

一方中長期の課題というのは、より本質的で、成功法則の発見には大分道のりがあるから中長期課題であるはずなので、そのような課題についてはPDCAを辛抱強く回転させ続けることを優先すべきはずである。その代わり、成功したときのリターンは大きくなければならないのだが。

この辺の課題ごとの実現までのリードタイムの色分けが出来ていれば、それぞれの仕組化への移行タイミングの見極めの参考になるのではないだろうか?一番のハッピーシナリオは、中長期施策の成功法則が想定よりも早期に見つかり計画を大幅に前倒しで実現できてしまうことであるが、その時は胸を張ってボーナスでもたくさんもらっていただければと思う。