データドリブンマーケティングとは?

データドリング以前のマーケティング

データドリブンという考え方とデータドリブンな経営についての注意点については前項で説明したので、そちらを参照いただくとして、ここではデータドリブンなマーケティングの重要性を考えていきたい。

まず、前提条件として、最近マーケティングを始めた若い人にとっては、マーケティングがデータドリブンなことなど当然と思われるかもしれないが、この点でも、はっきりそうだとは言い切れない。

その違いを一番わかりやすく説明する手法として私がよく例に使うのが、インターネットの広告といわるる4マス媒体といわれるテレビ、新聞、ラジオ、雑誌などのオフライン媒体の違いである。私がインターネットビジネスの世界で働き始めたのが1999年だが、そのころマーケティングといえば中心は4マス媒体で、ネット広告というのは、なんか最近新しいインターネットというメディアができて、テレビとかよりもターゲティングができるらしいよくらいの位置づけでしかなかった。2002年に楽天市場のマーケティングを一人で始めた時も、広告の出稿と楽天市場の購入実績をトラッキングするようなツールも普及しておらず、自社のシステム部門に依頼して自分たちで作るしか方法がない状況であった。

つまり、デジタル広告、デジタルマーケティングがトラッキング可能で、マーケティングが当然のようにデータドリブンであるという状況は当然のように思われるが、実はこの20年くらいでマーケティングの世界は大きく変わってきたというのが実態である。逆に言えば、そろそろ50才になるような今の大規模な企業で上位レイヤーにいるような私と同年代のマーケターで、ずっとデジタルマーケティングをデータドリブンでやってきましたという人間は、自分でいうのも変だが、実は希少な存在でなのだと自覚している。

データドリブンマーケティングの成功=高度に洗練されたPDCA

ということで、マーケティングもデータドリブンではない時代もあったのだという前提条件の理解をしたところで、今の環境下でのマーケティングのデータドリブンを考えてみたい。幸いなことに、今のデジタルマーケティングの環境は、データの取得という意味では、非常に恵まれた環境にある。3rd Party Cookieの規制や、個人情報の保護の問題など、最も自由であった時代よりは制限は厳しくなっているとはいえ、それでも自分たちのマーケティング上のアクションに対するリアクションをある程度正確にトラッキングできる環境であることには変わりはない。

デジタルマーケティングの基本中の基本は、このアクションとリアクションのデータを継続的に取得分析して、改善施策を実行するというPDCAを絶え間なく回し、その精度を競合企業よりも高度に洗練させられるかどうかである。これもある種当然のことを言っているのだと思うかもしれないが、ここで重要なのは「競業企業よりも高度に洗練」という部分で、ここを自信を持ってできていると言い切れるマーケティング担当者はどれだけいるだろうか?

これまで様々な事業のマーケティングチームを見てきたが、私の視点でき洗練されたPDCAを回しているといえるマーケティングチームに出会うことは残念ながら非常にまれである。もちろん、マーケティングチーム自体が未熟であるというケースも少なからず存在する。ただし、よく見るとマーケティングチームがデータドリブンに、正しくPDCAを回せる環境が整っていないことが原因であることも少なくない。CMOやマーケティング部長などマーケティングの責任あるポジションの人間の最も重要な責務は、現場がデータドリブンに意思決定をし、PDCAを正しく回す環境をどれだけ整えられるかということであると思う。そのためには経験上気を付けなければいけないポイントがあるので、次項以降で、項目ごとに説明していきたい。ポイントは次の5つであるが、「?」がついているところに気が付いてもらえるとうれしい限りである。

  • 責任領域の明確化?
  • 結果責任重視?
  • 綿密な計画?
  • User Insight?
  • 売上最大化?

データドリブン経営とは?

データドリブン経営の定義

データドリブン(Data Driven)のもともとの定義とは、下記のようにコンピュータサイエンスにおける計算モデルのことであるが、

「計算機科学における計算モデル(抽象的な計算の方法)のひとつである。データ駆動においては、ひとつの計算によって生成されるデータがつぎの計算を起動し、つぎつぎに一連の計算が実行される。」(出展 Wikipedia

これをビジネスの世界に置き換えると、各種データに基づいて意思決定をしていく経営手法であると一般的に理解されている。このデータドリブンなビジネスの手法は、DX化が叫ばれ、多くのビジネスがデジタル化、AI化されていこうとする中で、その重要性は増している状況にあるといえる。

ただ、この定義を聞いて、多くの人は当然のことであり、たいして目新しいものに聞こえないという人も多いのではないだろうか。私の場合、学生中から25年近くデジタルビジネス、ネットビジネスの世界で生きてきたということもあるかもしれないが、少なくともこれまで働いてきた会社や、一緒に仕事をしてきたパートナー企業の中で、データが重要ではないという会社にあったことはなかったと思う。

では、なぜ今更、データ重視の経営というようなある種当然の話がもてはやされるようになってきたのだろう?その理由を考える際に、おそらく失敗に終わる考え方は、データが重要でない理由を考え出すという思考法だろうと思う。私の経験上、よほど特殊なケースでない限りデータが重要ではないということがビジネス上で発生することはほとんどないため、この論法で攻めようとすると、おそらくそれっぽいロジックを組むことは難しいのではないかと思う。少なくても私には、思いつかない。

ただ、別の考え方として、あなたの会社やビジネスにおいて、明文化されていないにしても、データより重視されて意思決定がなされているようなケースが見当たらないかという聞き方をすると、「ああ!」と思いつく例はないだろうか?

データドリブン経営の障害となる典型例

このケースの最も代表的な例が、私も何度も経験したが、「社長/役員の〇〇さんがこういっている」というケースで、これを私は典型的な例として、「誰が正しいパターン」と呼んでいる。組織で仕事をしていると、どうしても組織構造の上位レイヤーにいる人間の意見がとおりがちで、その人物の意思決定の思考回路がデータドリブンであれば問題ないのだが、データよりも経験や感覚が重視されがち(頭が悪いのではないと信じたい)である場合は、結果的にデータドリブンにならず、データという客観的事実を重視して現場が出した結論がひっくり返るということが起き、現場のモチベーションが下がりまくるということが起こりがちである。

もう一つの代表例は、「マーケはOKなんだけど、営業がNGと言っている」とか、「当社はこの方向で行きたいのだが、大口の取引先の〇〇社がうんと言わない」というような「関係者がNGパターン」である。このような例も、残念ながら、それなりの頻度で発生しがちである。社内での力関係で自部署の意見が通らないとか、企業としての交渉力が立場上弱く説得ができないなど、現実にはなくすことは難しいのも事実である。

データドリブン経営の実現はまずマネジメントレイヤーから

ここでは代表的な事例を2つほど紹介したが、そのような視点で自分のおかれている環境を見直してみると、自分の会社が当然のことと思われたデータドリブンな経営ができているのかというのを評価することはできるし、多くの場合、改めてデータドリブンな経営ということが言われている理由が理解できるのではないだろうか?

会社としてデータドリブンは重要だということになり、今日からデータドリブンで行こうと決めたとしても、多くの流行りの経営手法同様に一朝一夕には行かないのも事実である。ただ、私の経験上、自分たちはデータを重視して企業経営を行うという意思を明確にし、それを経営のトップ層が実践すれば、中長期的に会社の下位レイヤー層の仕事の仕方、意思決定の仕方、上司への提案の仕方は必ず変わってくるものである。そのために最も重要なのは、経営のトップ層が根拠の説明もなく「自分はそう思わない」というデータに基づかない意思決定を行わないことを徹底すべきである。もし部下の提案に同意できない場合は、その理由を明確に説明し、もしその説明にデータ的な論拠がない場合は、それをサポートするデータの追加分析を依頼するか、自分の推論・仮説が間違っているというデータの追加分析を部下に指示するなどして、自分の意思決定をデータドリブンなものする努力をすべきである。もちろん、最初の自分の結論が結果的に正しい場合は、時間の無駄に思えるのかもしれない。しかし、自分の会社の経営が論拠のない誰かの感覚の集合体によって行われるのか、ある程度ロジック建てされたデータドリブンな経営がなされているのかのどちらが良いかを考えれば、少なくても私は後者の方がはるかに良いと思う。再現性のある意思決定が一貫して行われることで、中長期的には成長できる会社になるのではないかと考えている。