日々の人材育成(OJT)

人事部等で、そのような仕事をされている方には大変申し訳ないのだが、私は人材育成の話をすると、すぐに人材育成プログラムを作って研修の機会を増やしましょうとか、勉強会をやりましょうとかいう発想に疑問を感じてしまう。

なぜ、そのように思うのかといえば、研修が1年で数日だとして、1年に週5日間50週で250日近く働いている業務時間のうち、数日間で学べることと、250日間で学べる事のうち、数時間の学びの方がもし大きいとすれば、それ以外の200数十日の価値というのは一体何なのだろうか?勉強会が週に1-2時間だとして、週40時間の残りの時間の価値より、その1-2時間の勉強会の方が学びが大きいとすれば、日々の業務の時間とは何なのだろうか?もし、それで人がビジネスパーソンとして成長出来るのであればMBAを取った人など皆とてつもないスキルをもった人材になってしまう(が、多くの超高学歴の人を見てきたが、はっきり言って必ずしも仕事ができる人ばかりではない。。。)。

私は、人材の育成というのは、研修や勉強会で行うものではなく、日々の業務の中で身に着けられるものだと思う。そのベースがあったうえでの研修や勉強会、外部のセミナーなどで新しい情報や知識を得てくることは意味があると思うが、その前提がないところに、そのような情報や知識を大量にインプットしても、それほど意味があるとも思えない。

では、日々の業務の中で、何をすれば、人材を成長し、スキルを伸ばし、素晴らしいマーケターへと成長させることが出来るのであろうか?私が日々気を付けて、実践している方法を紹介したいと思う。

  • 簡単に答えを教えない
  • 責任を持たせる
  • 報告の背景にある考え、理由を説明させる
  • 報告内容に新たな視点を加えてフィードバックする

主に、この4点くらいだと思う。ちなみに、私は、これらのことを実施するために、定例報告を中心とした会議を活用していることを最初に付け加えておく。私にとって定例的な会議というのは、自分の部下が日々何を考え、何を課題とし、その課題を解決するためにどのような施策を行い、その結果がどのようになったのかを把握する場であると考えている。別にKPIの達成率が良いか悪いかの確認をしたいわけではない。そんなものは会議をしないでも、資料を見れば把握出来てしまう。

私にとって、重要なのは、自分の部下が日々どのレベルの深さでPDCAを回し、その結果とその背景、原因の分析をしているのかを知ることである。それが分かれば、自分の部下の成長レベルが理解できるし、自分自身にとっても新たな知識や経験を蓄積することが出来る。

よく定例会議の場で、同じような報告を聞きながら内職をしている偉い人を見かけるが、そんないい加減な会議をするのであれば、そんな会議はやめてしまえばいいと思う。報告者にとっても報告される側にとっても、会議は真剣勝負の場でなければならない。という前提で、この4つの実践を目指す会議の場を想像しながら、以下の説明を読んでもらえると、よりイメージがしやすいかもしれない。

簡単に答えを教えない

まず、一番重要なことは、部下が何か困っていたり、課題にぶつかっているときに、安易に答えを教えないということである。ここまでで何度も述べているが、マーケティングとは、「誰に、何を、何時伝えるか?」を考え、その精度を上げるために、繰り返しPDCAを回し続けることである。それを出来る力をマーケティングの基礎体力と呼んでいるが、この基礎体力の根源は知識ではなく、それを実践するための考える力である。つまり、優れたマーケターを育成するということは、知識をたくさん教えて、覚えさせることではないのである。

という前提に立てば、部下が悩んでいること、ぶち当たっている壁に、その解決法、克服法の特効薬を教えることが人材育成の役に立つであろうか?残念ながら、それは人材育成の方法ではなく、仕事の成果を早くだす方法である。これは優秀な人ほど陥りやすい罠だが、人材育成の時に業務成果を優先して、自分がやった方が早いことはなるべく自分でやり、スキルがない人でも出来ることを育成対象者にやらして、業務成果の最大化を図ろうとする。もしくは、多少スキルが必要なことはやり方を細かく指示して、失敗しないようにしてから仕事を渡す。もちろん、業務成果の「短期的な」最大化に取っては、それは正解なのかもしれない。しかし、このような状況で育成対象の人材に考える力がつくであろうか?私は非常に可能性は低いと思う。なぜなら、このようなやり方は、なるべく考えずに言われた通りにタスクを実行する方向に誘導しているからである。それでもよい仕事もあるのかもしれない。しかし、繰り返すが、マーケティングに必要な基礎体力は自分で考える力であって、言われた通りに、マシンのように正確に仕事をこなすことではない。

もちろん、営利企業である以上、事業成果を出し利益を生み出すことは重要なことである。そのために、短期的な事業成果の最大化を図る努力も重要だと思う。しかし、中長期的な事業成果を犠牲にし、短期的な成果に特化することは正しいとは思わない。人材育成とは長期的な投資であるので、ある程度短期的な成果は犠牲となるのは覚悟しなければならない。もしそれが嫌なのであれば、十分なスキルのある経験者だけで社員を固めればよい。しかし、そのような恵まれた企業など世の中そうはたくさんないのではないか?

よく答えを教えることは簡単だというが、それはその通りである。それなのに、なぜ企業の人材育成でそれがなかなか実践しにくいのかといえば、短期成果とのトレードオフになっているからだ。短期成果と人材育成のバランスをどのようにして取るのかを考えるのは、残念ながらある程度経験がいると思う。しかし、このトレードオフを理解し、試行錯誤しながら、自分なり、自分のチームなり、自分の会社なりの正解を見つけてもらえればと思う。

責任を持たせる

「簡単に答えを教えない」こととほぼ同義に近いのであるが、部下に責任を持たせることも、考える切っ掛けとして重要なのではないかと思っている。会社で仕事をしていて、一番気楽で、リスクが少ない働き方は、上司や先輩に言われた通りに仕事をするという方法である。なぜなら、言われた通りに行った業務であれば、失敗しても自分の責任にはならない。それは明らかに指示をした側の責任である。この安心感に浸ってしまうと、人間なかなか抜け出せなくなる。しかも、上司が優秀で、言われた通りにやって、成果が出てしまったりすると、上司と一緒に出世出来てしまったりする。さらに、たちが悪い人だと、自分では何も考えていないのに、自分を優秀なビジネスパーソンだと勘違いしていたりもする。こうして上司の顔色ばかり伺いながら、部下には厳しいという、典型的なYes Man型の中間管理職が生まれるわけである。

会社内での出世とか、世の中的な評価という意味でいえば、それで立派なビジネスパーソンは生まれるのかもしれないが、残念ながらそれでは優秀なマーケターは育たない。それではどうすれば良いのか?簡単な話である。命令しなければ良いのである。自分の判断は自分で考えて決断させる。つまり、自分でやることには自分で責任を取らせるようにすればよいのだ。

企業で働いていて、上司の命令に背くことを奨励するのは難しい。会社の指揮命令系統が崩れてしまうからだ。もちろん、部下の立場からしても、上司の命令に背くことはリスクが高いので、大抵の人はそのようなリスクは犯せない。そうすると、部下に自分でやることの責任と自覚を持たせ、必死で自分で考える環境を作るためには、命令をしないという事しか基本的にはないのだと思っている。

では、上司の役割とは何なのであろうか?それは、大きな失敗や過剰なリスクを追わせないために部下の課題の解決の適切な方向づけや、業務範囲や投下コストなどをコントロールしていくことなのだと思っている。当然リスク承知で好き放題やらせてしまっては、会社の業績のコントロールが出来なくなってしまう。必要なのは各自の能力にあわせて適切なリスクレベルになるようにコントロールしながら、適切な方向性のヒントを提示しながら、最終的には自分で決めさせるように誘導して行くべきなのだ。

報告の背景にある考え、理由を説明させる

自分で考えた施策を責任を持って実行する環境は整った。ではいよいよ日々の活動の中で人材を育成していくことにしよう。それが最も効率的に行える場は報告の場であると思う。それは上司とのWeeklyの定例でもよいし、育成担当者との毎日の朝礼でも良いし、そこまで定期的でなくても、隣同士でちょっといいですかというカジュアルな報告であっても形態ななんでも構わない。重要なのは、その内容である。

直面する課題や目標に対してどうすれば上手く行くのか仮説をたて、実行する。その結果を検証し、なぜ上手くいったのか、なぜ上手くいかなかったのかの分析を行い、それを受けて次にどのような施策をするのかを提案する。この一連のプロセスを行ってPDCAの1サイクルが終わるわけであるが、報告においては、このすべての要素を毎回きちんと、分かりやすく説明させる癖付けを徹底して行わなければならない。

特に、仮説が上手くいかなかったケースにおいては、なぜ想定通りに行かなかったのかは比較的に時間をかけて検討することが多いが、じつは人間成功した理由について深く考えるということをあまりしない傾向が強いと思っている。なぜなら、失敗すると、その理由を追及され、それに対して回答、言い訳をしなければいけなくなるケースが多いが、成功すると「良かったね」で終わってしまったり、理由を説明するにしても「その理由は本当なのか?」と詰問されるというケースは殆どないからである。

しかし、私はもちろん失敗から学ぶことも当然重要であるが、それと同程度かそれ以上に重要なのは、成功した施策についてその理由を可能な限り把握し、その成功事例を「正しく」拡大再生産することが、ビジネスの成長スピードを左右すると考えている。重要なのは、この「正しく」という言葉で、その成功施策がどのような環境で、どのような条件が揃うと機能するのかを分かっていないと、上手くいかないケースに無理やり適用して上手くいかないということが起こったりするからである。

多くのマーケターを見てきたが、深く考える力というのは一定以上の地頭の良さが備わっていれば、訓練により養われると思っている。ただ、一人の人間が、いくら環境を整えてもらったとしても、では日々の業務の中でどれだけ深く考えているのかを、外形として把握することはなかなか難しい。このため、各人がどれだけ深く志向し、分析を詳細に行っているのかをアウトプットさせる場を強制的に作ることは必須である。報告というのは、結果の良し悪しに一喜一憂する場所ではない。結果の良し悪しが発生した背景と理由を正しく説明する場所である。報告の場をどれだけクオリティの高い場所にするのかによって、そのチームの人材の育成のスピードは大きく変わってくるのである。

報告内容に新たな視点を加えてフィードバックする

日々のPDCAの活動についての報告を行うというところまで何とか精度高くできるようになったとしよう。最後の仕上げは、教える側のフィードバックである。人材育成において、上司や先輩社員が教えられる立場の人材にとって何のためにいるのかといえば、当然教えるためである。もちろん、教えるためには、教えられる人よりも知識や経験、より深い思考を持ち、それを適切なときに提示し、教えられる人の成長を後押し出来なければならない。教えられる人間が必死で考えてきた報告に対して「分かった」の一言で、何が良いのか、何が悪いのか、どこをより深堀すべきなのかなど、正しいフィードバックを行うことによって、報告を作るプロセスでの思考がより深みのある、価値の高いものに昇華していく。このため、報告を受ける立場の人間にとって、報告に対して付加価値の高いフィードバックを加えることは、重要な責任であると私は考えている。

当然、それは簡単な事ではない。例えばWeeklyの打ち合わせでの報告を10分で受けるとすれば、報告を受ける人間は報告者が40時間分必死で考えてきた内容を10分で正しく理解し、その40時間の思考で思いつかなかったり、見逃したりしている点、見えていない将来の展開などと考えフィードバックしなければいけないわけである。よほど頭の回転が早く、優秀な人であれば別なのかもしれないが、少なくても私程度の頭の回転では、集中して部下の報告に向き合わないと、よいフィードバックをすることが出来ない。特に何年も一緒に仕事をして、十分にスキルの高い部下との会議などでは、彼らの思考を越えるフィードバックをするのは本当に大変である。

でも、部下や後輩に深く考えることを課す以上、それに対して正しいフィードバックをすることは必須である。なぜなら、そのプロセスがないと、正しい方向に考えられているかどうかのディレクションが当人には分からないからである。

4つの条件をクリアする簡単な会議での実践法

ここまで日々の人材育成における4つのきおつけるべきポイントを紹介してきたが、最後に私が普段実践している会議の実践方法を皆さんに紹介して、日々の人材育成のパートを締めくくりたい。私は自身が出席する自部署の打ち合わせにおいて、報告者一人に対して最低1回は何らかのフィードバックをすることを自分への義務として課している。もちろん、時間の都合などで難しい場合もあるが、原則そうするように心がけている。なぜなら、そうすることが、自分がその打ち合わせに出席している付加価値であると考えているからである。上述の趣旨を考えれば、報告の場というのは、報告する側と報告される側の真剣勝負の場でなければならない。報告者がその期間に行ってきた施策について鋭い分析をし報告する。それに対して、報告者が思いつかないような新たな視点を加えてフィードバックする。その繰り返されるプロセスが、自分のチームのメンバーが成長する最も重要な機会である。そして、その質が高ければ高いほど、次回の報告までのプロセスの質が高くなるわけである。

真剣勝負であると考えるのであれば、とても内職などしていられない。頭をフル回転して、報告を聞かなければならない。そのような気持ちで、部下や後輩の報告をあなたは聞いているであろうか?是非一度見直してみることをお勧めしたい。

【プレスリリース】2024年4月4日

楽天・KONAMI・トライトのCMO/マーケティング統括責任者歴20年のマーケターが新コンサルティングファームを設立

株式会社データドリブン・コンサルティング(本社:東京都新宿区、代表:堀内公博 以下、データドリブン・コンサルティング)は、2024年4月より本格的なサービスの提供を開始したことをお知らせします。

データドリブン・コンサルティングは20年以上国内外のマーケティング最前線で、CMO/マーケティング統括責任者として活躍してきた堀内公博(ほりうち きみひろ)が新たに立ち上げたコンサルティングファームです。

堀内は、楽天グループ株式会社(以下、楽天)のマーケティング部門を一人で立上げ、その後9年間に渡り楽天市場のマーケティング責任者や楽天グループのマーケティング統括部門責任者を歴任しました。その間、楽天スーパーポイント(現、楽天ポイント)、楽天アフィリエイト、クーポンサービスなど楽天グループの経済圏構築の基盤となる様々なサービスの開発責任者として活躍しました。

株式会社コナミデジタルエンタテインメント(以下、KONAMI)では、米国にてモバイル海外事業の立上げに責任者として関わり、帰国後にはグローバルのマーケティング責任者を歴任。同社成長の源泉となった、国内外のモバイル事業やコンソールゲーム事業の成長に貢献しました。在任中に50年以上の歴史を誇る同社は、複数回に渡り史上最高益を実現しています。

医療福祉系、建設系人材事業の大手企業である株式会社トライト(以下、トライト)では、3年半に渡りCMOとしてマーケティング部門の再構築を実施。同社を最高水準のマーケティング組織へと成長させ、高い事業成長を実現しています。

当社が提供するコンサルティングサービスは、堀内の20年に渡る事業会社におけるマーケターとしての経験に基づいた実践的なものとなります。その範囲は単純な戦略の策定にとどまらず、組織構築、人材育成など組織の構築/再構築を行い、クライアント企業の中長期の事業成長に貢献することを目指します。

その実現には、データドリブンな意思決定に基づいたデジタル時代に適したマーケティングの思考方法を徹底的に現場に浸透させる必要があります。一朝一夕に実現可能な課題ではありません。しかし、企業がデジタルの時代で勝ち抜いていくためには、必要不可欠なスキルです。当社は、日本に本物のマーケター/マーケティングチームが生まれ、彼らが、日本企業がグローバルに戦う起爆剤となるためのお手伝いをできればと考えています。

なお、堀内の20年に渡る経験をもとに、デジタル時代のマーケティングの思考法を纏めたBlogをコンテンツとして提供しています。当社のマーケティングに対する考え方をご理解いただける内容となっておりますので、是非ご一読ください。

CMO NOTE(Blog)デジタルマーケティングを成功に導く思考法

【会社概要】

株式会社データドリブン・コンサルティング
代表取締役 堀内公博
問い合わせフォーム www.datadriven.co.jp/contact/

代表者略歴

※各社役職名は退職時のもの(除く現職)

マネジメント経験

開発サービス(責任者としてかかわったもののみ)

CMO NOTEについて

24年1月からの3カ月間久しぶりに時間があったので、これまでマーケティングについて考えてきたことを一度纏めてみようと思い立って書き始めたのがこのCMO NOTEである。最初は本でも書こうかなと思ったのだけれど、本の出版の仕方も分からないし、そもそも私が書いた本を出版したい人がいるのかも知らないし、今まで実業界にいて自分の名前を売ることに全く無頓着というか、なるべくしないようにしてきた自分の本を買おうと思ってくれる人がどのくらいいるのかも分からない。

ということで、折角データドリブン、デジタルマーケの専門家と自称しているのでデジタルでやってみようということで、Blogの形態で書くことにした。

まず初めに申し上げたいことは、このBlogでお手軽なノウハウが得られることは期待しないでもらいたいということである。申し訳ないが、お手軽な方法と紹介されているものは大抵の場合、嘘か前提条件が厳しすぎて汎用性がないという偏見があるため、そのようなものを書けないし、書くつもりもないからだ。

ここでは、デジタル時代にCMOやその上位レイヤーのマネジメントが考えなければいけない本質的な経営課題をマーケティングというフィルターを通して議論したいと思っている。20年以上、楽天とその買収した企業群、日米のゲーム業界、日本の人材業と様々な事業をマーケティングのフィルターを通して見てきた。それも、コンサルタントとしてでも、広告代理店でもなく、事業会社のマーケターとして見てきた。その経験で確信しているのは、データドリブンな意思決定やデータドリブンなマーケティングを実施するためには、マーケティング組織は最低限として、理想を言えば企業組織全体に一貫したデータドリブンの意思決定を浸透させるしか方法はないということである。その実現のためには当然強い意志と時間が必要である。私の経験では、1,000-2,000人規模の会社であっても最低国内だけで3年程度の時間は必要だとおもう。グローバルの組織改善という視点でいえば5年ではやりきれなかったという実績しかない。

しかし、ゴールへの到達にその程度の時間がかかるとしても、現状分析を正しく行い、改善しやすいところから手を付ければ、短期でのパフォーマンスの改善ももちろん可能である。この企業で今何をすればよいのを聞かれてもそれは実態を見てみなければ分からないという答えにしかならないが、ここで議論している内容をきちんとご理解いただければ、自分の組織に今何が一番足りていないのかを理解するヒントにはなると思う。

また、ここで書いている議論をまだ組織の意思決定が出来る立場にない人が読んだ場合は、途方に暮れることもあるかもしれない。その場合は、是非このBlogを意思決定出来る人にも勧めてもらって、議論の切っ掛けにしていただけると良いのではないかと思う。

24年3月末を持ってトライトのCMOを正式に退任したため、24年4月から本格的に活動を始めるため、実は1月から少しづつ記事をUpしていたのであるが、今日から本格稼働とさせていただきたい。

オッサンマーケターなので、実験的に似合わないSNSマーケなども部下を頼らず自分でやってみようと思っているが、やり方が拙いいのは、試行錯誤中であると温かく見守っていただけるとありがたい。

この2カ月くらいで少しずつ記事を上げてきたが、まだ書こうと思っていることの半分も書き終わっていないので、これからも内容は追加していくつもりである。すでにUpしているもの、これからUpするものも含めて、下記の内容で今後書き進めていこうと思っている。

もしこれを先に書いてほしいというリクエストとか、感想でも、異論でもあれば、こちらからご連絡いただきたい。

なお、私とメール等のやり取りをしたことがある人であればご存じだと思うが、勢いで文章を書くため、タイポ、誤字脱字が多いのはご容赦いただきたい。私個人にオペレーション能力が欠如していることは自覚しているが、50歳になろうとしている今から改善することは諦めてしまっているので。

最後に、このように20数年間で考えてきたことを纏めようと思って書き始めると、一つ一つのお題に対して私に考える機会を提供し、一緒にチャレンジしてくれた多くの先輩、同僚、部下、代理店、メディア、クリエーターの方々の顔が思い浮かび、例外はありつつも、本当にこの20年で一緒に仕事をした人に恵まれてきたのだと改めて思えた。この場を借りて、これまで一緒に仕事をしてくれた多くの人に感謝をお伝えできればと思う。

2024年4月3日
株式会社データドリブン・コンサルティング
堀内 公博

【目次/カテゴリー】

※各カテゴリーの記事は原則古いもの(カテゴリーの下にあるもの)から読んでいただけると流れが分かりやすくなっています。カテゴリも番号の若いものから読んでいただく意図で書いていますが、ご興味があるものから読んでいただいても分かるように書いているつもりです。

優れたデジタルマーケターになる資質とは?

マーケターに育成できる人材を見極めるのは採用企業の責任

前項までで、人材育成の一般的な考慮事項と、マーケターが学ぶべきマーケティングの基礎体力の内容とその学習環境について説明をしてきたが、その中で簡単に触れながら、詳細に説明をしてこなかった項目がある。それは、マーケター、特に、現在のデジタルマーケティング環境におけるマーケターにはそもそもどのような資質が求められるのかということである。

批判されることを覚悟で正直に申し上げるが、一流のマーケターになるには、残念ながらいくつかの条件をクリアする必要があると考えており、安易に誰でも頑張れば成れるという楽観論は申し上げない。私は、企業における人材の採用というのは、採用する側と、採用される側の信頼関係の上に成り立っていると考えている。採用される側は当然日々の業務の中で最大限のパフォーマンスを出せるように努力することが責任と義務だと思う。一方で、採用する側に求められるのは、採用する職責を担うことが出来るポテンシャルがあるかを採用時点で見極めたうえで、採用時に提示した業務でより高い次元の人材へと成長させることであると思う。ここで、重要なのは、採用時点でポテンシャルを見極めるということであると思う。そして、それを正しく見極めるために理解しておかなければいけないのは、その業務を担うのに必要な資質要件を正しく理解することである。

なお、この経験者の採用にあたっては、資質に追加して、プロフェッショナルのキャリアからの経験値とスキルが当然加わる分けだが、それについては一般論で述べることは困難なので、この場での議論の対象にはしない。

デジタルマーケターに必要な5つの資質

私が考える優れたマーケターに必要な資質とは以下の5点である。

  • 論理的に考える力がある
  • 数字を見ることに拒否感がない
  • ある程度真面目で、継続して努力することが出来る
  • 責任感があり、自身の行ったことの結果にコミットできる
  • 向上心が強い

論理的に考える力がある

クリティカルシンキング、ロジカルシンキングはもちろん訓練によって向上する部分はあると思うが、やはり個人の資質により向上できる限界値は決まってしまうのは事実だと思う。分かりやすく言えば地頭の良さという事にはなるが、面接で話をしながら、どれだけロジカルに考える力があるかは見極めなければいけない。

どの程度地頭がよければいいかを表現することは難しいが、分かりやすい基準としては、既存のメンバーとの相対的な比較で考えてみるのが分かりやすいのではないかと思う。

もし、既存のメンバーのクオリティに満足しており、リソースが足りないという状況であれば、既存メンバーのポテンシャルを基準値にすれば良いであろう。逆に、既存メンバーのクオリティに不満があり、チーム全体のレベルを向上させていかなければいけないという事であれば、既存メンバーのポテンシャル以上の人材を見極めなければいけない。これも事実として、企業には企業毎の採用競争力があるため、いくら頭の良い優秀な人材が欲しいと思っても、自社の採用競争力を大きく上回る人材ばかり集めようとしても上手くいかない。また、無理にそれを実現しようとして、新規の人材を既存メンバーとかけ離れた条件で採用したりすると、私の経験ではチームマネジメントの点で上手くいかないケースが多い。

いずれにしても、デジタルマーケティングの成功にはPDCAをロジカルに回していくことが必要不可欠であるため、それができるポテンシャルがあることは絶対条件である。

数字を見ることに拒否感がない

数字に拒否感がないということも当然必要不可欠な資質である。データドリブンなデジタルマーケティングの日々の業務は、多くの時間を数字と向き合いながら過ごさなくてはならない。そのような業務であるのに、学生時代から数学が全く苦手で、数字を見るのも嫌だという人を採用してしまうのは、リスクが高いと言わざるを得ない。しかし、マーケティングの正しい理解が乏しいと、少なくない割合でそのような資質の人がデジタルマーケティングを志望してきてしまうので、注意深く見極める必要がある。なぜ、デジタル化されたデータドリブンな領域であるマーケティングの世界に数字が嫌いという人が入ろうとしてしまうのかというと、勉強していない人はマーケティングの結果の部分のみを見て、華やかで楽しそうだと思ってしまっているケースが多いからなのだと思う。

例えば、話題となったTVCMを作って、有名タレントと一緒に仕事をしたりであるとか、最近であれば、インフルエンサーマーケティング等で、有名なユーチューバーと企画を作るだとかという話である。しかし、デジタルマーケティングに携わっている人であればすぐに分かる話だが、そんな華やかな話は、マーケティング業務のレアな一部にすぎず、日々の業務は大変地味な、細かい数字と向き合う日々となる。

そのような現実を知らないこと事態は全く罪ではないが、結果的に実際の業務に適した資質を持っていない人材は当然採用してはいけない。

ある程度真面目で、継続して努力することが出来る

ここまでで、ロジカルに考えることができ、数字に拒否感がないひとというある種当然のことを書いてきたが、実はこの2つ以上に、最も重要だと思っている項目が、この真面目で継続して努力するという項目である。

例えば、数字が最も重要なのであれば、「数字に拒否感がない」ではなく、「数字に強い」と書けば良いはずで、あえてそう書かなかったのは、無茶苦茶数字につよいことが最も重要だとは思っていないからである。

継続してこのブログを読んでくださっている方であれば、耳にタコが出来ているはずだが、デジタルマーケティング成功の秘訣はPDCAの高速回転である。具体的には、日々ABテストを細かいパラメーターを操作しながら行い続けて、昨日より今日、今日より明日がより改善した状態になるように継続的に努力していくことが最も重要なことである。

この考え方と反対の考え方が、早く結果を出したがるタイプの人材である。野球でいえばホームランを打つために、ホームランか三振かというようなフルスイングばかりするような人である。残念ながら、このタイプの性格の人は、現在のデジタルマーケティングには向いていない。なぜなら、PDCAの基本は、小さな失敗を早く、意図を持ってすることであり、一か八かで大きな失敗をするようなハイリスクハイリターンの姿勢はほとんどの場合求められないからである。

私は、真面目に、継続して努力、改善活動を行えるというのは、大変素晴らしい才能だと思っているし、その才能はどんな頭の良さにも勝る成功への近道であると思っている。デジタルマーケティングのチームに天才的なひらめきのある人はたくさんはいらない(一人くらいはいても良いかもしれないが)。日々のオペレーションを実行する大多数の人材は、この継続して努力をする真面目さがある人材で占められていなければいけない。

責任感があり、自身の行ったことの結果にコミットできる

PDCAを精度高く回していくということを別の言葉で表現すれば、自分で行った施策に強い責任感を持ち、自分が行ったことがどのような結果になったのか、その結果が想定通り上手くいこうが、上手くいくまいが、その理由を理解し、その理由を次の施策の成功につなげていくということである。

それを、真面目の一言で片づけることも出来るが、別の言い方をすれば、私は責任感と結果へのコミットということであると思う。但し、ここでくれぐれも誤解して欲しくないのは結果にコミットということと結果オーライ、結果良ければすべて良しとは根本的に異なるということである。ポイントは、単発の施策が上手くいくかどうかではなく、その結果がなぜ起きたのかを理解して、次につなげて、最終的に改善の方向に進み続けるということである。私自身がそういう性格だから、余計にそう思うのかもしれないが、人間良い時は深く考えずに感情的にHappyになり、悪い時にはその側面から目を逸らして忘れ去ろうしやすい気がする。もちろん日常生活ではそれでも良いのかもしれないが、ビジネスをする上においては、それでは大いに問題がある。PDCAの基本というのは何かといえば、成功の再現と、失敗の再発防止である。その繰り返しでPDCAサイクルにおいて成功の確率が上がり、改善のスピードが上がっていく。それを実現するためには、成功しようが、失敗しようが、その結果を冷静に受け止め、その背景を正しく分析して次の施策に活かす強い意思と、一度や二度の失敗に目を背けず、逃げ出さず、最終的に成功させるのだという本質的な結果へのコミットメントを強く持つことが不可欠である。この点を見抜くことはなかなか難しいが、失敗事例とそこからのリカバリーの経験談などを聞くと、なんとなく感じ取れたりする気がしている。

向上心が強い

マーケターに必要な資質の最後のポイントとして上げたいのは、向上心である。デジタルマーケティングの世界というのは日進月歩でテクノロジーが進化し、新たなメディアが生まれ、新たな手法が生まれてくるものである。こういう話をすると、年寄の昔話のような話になってしまってイメージが悪くなるが、私が本格的にマーケティングを始めた2002年9月の時点では、Googleのリスティング広告も、Facebookも、Youtubeのインフルエンサーマーケティングも、iPhoneも、AndroidスマホもInstagramもAIがコントロールする広告も世の中に存在していないか、あったとしてもほぼ普及しておらず、一般的なマーケティング手法となっていなかった。ほんの20数年前の話である。その間に、いま例に挙げたような新たな広告手法や、今は思い出せないような流行りのマーケティングの手法が生まれては消えていった。マーケターというのは、そのような新しいテクノロジーや広告手法の登場に対して、その本質的な意味を理解し、自分の課題の何を解決してくれる可能性があり、どのように使うのが最適であるのかなどを考えながら、自分たちのマーケティングの成功法則を常にバージョンアップし続けていかなくてはいけないわけである。立ち止まることは許されない。たぶん10年くらい前には、先ほど挙げた例のうち、ぱっと思いつく限りでも、インフルエンサーマーケティングとInstagramの広告などはほぼ活用されていなかった。いま、それらの手法を全く使わずに、自分たちが行っているマーケティング活動を最大限効率化していると言えるであろうか?少なくても、一度くらい試してみなければ、良いも悪いも分からないであろう。

よく若い人を面接していて、一つの会社で2-3年仕事をして学ぶことがなくなったといって転職するのを繰り返している人を見かける。本人はそれでキャリアアップしているのつもりなのかもしれないが、私はそういう人はよほどそのようになっている理由が明確で、納得感のあるものでない限り採用しないことにしている。なぜなら、一つの会社で2-3年で学ぶことがなくなるというのは、表面的な側面をなぞるだけで分かった気になっているか、本当に学ぶことがない会社なのかのどちらかとしか私には考えられない。もし、前者であれば、その人には物事を深掘って考え、真実を追求し、自分をレベルアップしようという向上心が足りないのではないかと思う。後者であれば、新卒1社目の会社は仕方ないにしても、それを繰り返してしまうのであれば、そもそも働く場を選ぶ判断が稚拙過ぎるとしか思えない。いずれにしても、良い人材である可能性は低いと思っているからだ。

自分を成長させるというのは、真面目に考えると結構厳しい道である。それを乗り越えるためにも向上心は重要な要素であると思っている。

自分の長所と短所を見極めて成長を加速させる

ここまで、私が採用面接で経験ではなく成長ポテンシャルを見るときに心がけて見ているポイントを紹介した。もちろん、一人一人には個性があり、今回紹介した要素が一つでも欠けたら可能性がないという話ではない。マーケティングというのはチームで仕事をするので、自分の苦手なことは隣の人が助けてくれるかもしれない。ただ、これらの要素を並べてみて、自分の性格、資質を分析するしてみて、自分の得意不得意を理解しておくことは役に立つかもしれない。自分のマーケターとしての弱点は何で、どういうところに気を付けないといけないのか?自分の成長を阻害している要素はどこにありそうなのか?それを知ることが出来れば、弱点を長所にまでもっていくことは難しくても、改善することは出来るのかもしれない。

ちなみに、自分でこのように書いた後で白状するが、人のことをいうのは簡単であるが、私自身はこの要素を全部満たしているわけではない。はっきり言って、3番目の真面目に努力を継続する力は著しく低い。でも、何とかやれている理由はまた別の機会に話すことにする。

マーケティングの基礎体力

すべてのマーケティングの基礎とは?

人材育成の一般的な私の考えを議論してきたが、ここからはいよいよマーケティング人材の育成について具体的に考えていくことにしたい。まず最初に考えたい事項は私がいわゆるマーケティングの基礎体力と呼んでいる、細分化される様々なマーケティングスキルに共通する基礎スキルについてである。

伝統的マーケティングの教科書で何百ページに渡って議論をしたり、このブログで長々と私の経験や考え方を読んだいただいている中で、マーケティングという活動は何をしているのかということのそもそも論を考えてみたい。私はマーケティング活動というのは、分かりやすく言えば企業が顧客に対して自社の商品やサービスを購入したり、利用してもらったりするための活動になるわけだが、究極的に何を突き詰めて考えているのかといえば、「誰に、何を、何時伝えるのか?」ということだと思う。

「誰に」をマーケティング用語で言えばターゲティングということになるであろう。「何を」は、商品・サービスのポジショニングであったり、差別化のポイントの明確化、さらには広告宣伝活動におけるクリエイティブワークの話となる。最後に、「何時」というのは、顧客とのタッチポイント、広告宣伝の利用媒体の選定ということになる。

マーケティングというのは、その精度を上げるために、様々な手法やテクニック、最近ではそこにAIを中心としたテクノロジーが開発され、高度化が行われてきた。しかし、私は、その細かい手法やテクニック、テクノロジーというのは、この3つの要素を精度高く行うためのものでしかなく、マーケティングは、どの時代においても「誰に、何を、何時伝えるのか?」をシンプルに考え続ける活動だと思っている。

つまり、この3つの基本をしっかり身に着けることが出来れば、マーケティング活動の専門的に分化された様々な機能や手法は、その応用とツール使い方などテクニック的なバリエーションと考えればよいのである。ところが、現在のように機能が分化し、それぞれに専用のツールであったり、メディア・媒体毎の機能の複雑化・高度化が進んでいる状況を目の当たりにすると、マーケティングのスキルを上げる、マーケティングの能力を育成するという議論になると、どうしても私の言う基礎体力部分ではなく、テクニックの習得に目が行きがちになってしまう。私はこの考え方がまず間違っていると思っている。

ちなみに、このテクニックを習得するということがマーケティングのスキルが高いという事であれば、ここで偉そうにマーケティングの話を書いている私自身は全くマーケティングのスキルがないということになる。私は2002年くらいから本格的に事業会社でのマーケティングを始めたが、ここでテクニックの習得と言っている具体的な広告媒体の運用や、CRM関連のMAツールなどを自分で運用するということを自分自身で手を動かして行っていたのは、おそらく最初の半年から1年程度であり、それ以降は自分で手を動かすのではなく、優秀なチームのメンバーにやってもらい、その報告に対して、言いたいことを言うという方法でマーケティングに関わってきた。このため正直に言うが、例えばGoogleの広告アカウントの管理画面すらまともに見たことがないので、明日から担当者がやめてしまって、Googleの広告運用を自分でやらざるを得なくなってしまったら、自信をもって何もできないのである。

では、私がなぜ、デジタル広告の運用やオフライン広告、CRM、データ分析、コンテンツマーケティングやインフルエンサーマーケティングなど(正直、後半に向かってドンドン苦手になっていくのだが)、様々なマーケティングの手法やテクニックを活用した活動についてマネジメントし、おそらく、部下に正しいディレクションが出来るのかといえば、20年以上に渡って現場でこのマーケティングの基本となる「誰に、何を、何時伝えるか?」の3点を考え続け、それぞれの手法において、この3点をどのようにコントロールして、効果を上げようとしているのかを誰よりも真剣に考え続け、理解しようとし続けてきたからだと思っている。

AI化が進んでも基本は変わらない!

例えば、最近はAIが物凄いスピードでデジタル広告の分野で発展してきている。ではAIがやっていることは、これまで人間が考えてやってきたことと根本的に何か違うのであろうか?私はそのように考えてはいない。AI化が進む以前にも、真面目にマーケティングをしている人であれば、可能な限りの顧客のデータを集め、マーケティングのプランを作成し、その答え合わせをDCAを回しながら精度Upしていたはずである。AI、特にマシンラーニング、機械学習というものが行っているのは、このプロセスをAIが行っているにすぎないのだ。但し、AI化によって世界が変わるのではと思われている理由は、AIがこれまで人間が行っていたデータの処理能力を遥かに超えて、人間ではほぼ真似ができないレベルに達してきたからなのだ。つまり、現在のレベルであれば(将来まではわからないが)AI化が進んだからといって、AIが自分の想像できないようなロジックでマーケティングの精度向上をしているということは余り想像できないと思っている。という前提に立つのであれば、AI化が進んだとしても、ここで議論している3つの基本は相変わらず何も変わらないといえ、これまで通り、基本に忠実に考えていくことが有効なのだ考えている。

基礎体力強化には一人で3要素をコントロールしやすいものが最適

ということで、マーケティングのスキルを伸ばすために最初に考えるべきはこの基礎体力をどのように習得していくのかということになる。そこで登場する考え方が、人材育成の一般論の項で説明した「狭く深く」の考え方である。マーケティングにおいて、この狭く深くの基本となるのが、自分が行った施策に対して「誰に、何を、何時伝えるのか?」のどの項目がどのような結果になるという仮説とその検証を行い、それが想定どおりであったか、そうでなかったのかを確認する。そのうえで、何故それがそのような結果となり、より改善するためには何をすべきかという仮説を新たに立てる。このプロセスをひたすら繰り返すことにより、「誰に、何を、何時伝えるのか?」という3つのポイントを深く考え、様々な施策や顧客の理解を深めていく。そして、この深めていくプロセスを実践するために必要な環境的な条件が「狭く深く」なのである。もちろん「広く深く」が出来る能力があるのであれば問題ないのだが、人材育成の前提条件はそのような特殊な人材ではなく、普通に優秀な人材を優秀なマーケターに育てるという事なので、深い思考を繰り返し行うことを強制するために業務範囲を狭くすることを検討すべきである。

では、もう少し具体的に、この狭く深くの範囲にどのような業務を選択するのが良いのだろうか?私のおすすめは、「誰に、何を、何時伝えるのか?」の3つの要素をなるべく一人で完結してコントロール出来る範囲が大きい業務を選択することである。といっても、概念的な説明では分かりにくいと思うので、具体例を用いて説明する。例えば、デジタル広告の運用で、未経験や経験の浅い人材がチームに加わったとして、狭く深くのお題として何を与えるかを、この基準で選択する時、私がマネジメントしてきたチームにおいては、リスティング広告の運用を選ぶことにしている。リスティング広告というのは、Googleなどの検索エンジンの検索結果ページにその検索キーワードに関連した広告を表示するという広告メニューである。リスティング広告における「誰に」は、どのようなキーワードを検索している人に広告を当てるのかとなる。つまり、広告を購入するキーワードのリストを考えるということである。次に「何を」は広告が表示される広告テキストの内容になる。どのようなキーワードを検索した人に、どのような広告文を表示し、自社のサービスや商品に興味を持ってもらい広告をクリックしてもらうかを様々な訴求要素を組み合わせ、伝わりやすい表現を考えることになる。最後に「何時」であるが、これはそのキーワードで検索をした時なのである程度決まっているわけであるが、例えば広告が検索結果の最上部に3つ表示され、中段に3つ、下段に3つと表示位置が違う場合、どのくらいの広告単価を支払って(当然高い単価を払うほど基本的には上部に表示されやすい)、どこに表示するかで「何時」が変わってきたりする。リスティング広告は、マーケティングを構成する3つの要素の組み合わせを最適にコントロールすることで、パフォーマンスを改善していく分けであるが、当然組み合わせは無限にある。このため、ひたすらABテストを繰り返しながら、一つ一つの要素の変更とその反応を観察しながら、辛抱強く正解に近づいていく思考を繰り返すことが要求される。そして、リスティング広告の良いところは、この作業をほぼ一人で完結して出来るということである。

ただ、この作業をやったことがある人であれば、私の言わんとしていることがすぐに理解できるのであるが、そうでない人には何を言っているのか分からないと思うので、別の広告の例を使って、リスティング広告の一人完結度合いを理解してもらえればと思う。対比する例として、さすがにTVCMまではやりすぎな気がするので、Youtubeに動画広告を流して、商品の認知度向上を図る施策を考えてみよう。

まず、「誰に」と「何時」については、Youtubeもリスティング広告も同じGoogleの商品であるためそれほど変わらない。しかし「何を」の部分にオペレーションは大きく異なる。広告のクリエイティブというのは、テキスト→静止画→動画の順番で構成要素が増えていき、制作予算も大きくなっていく傾向にある。そして、制作予算が大きくなっていくということは、ABテストをする事のハードルが高くなる(失敗が大きくなる)し、時間もかかるということになる。そうすると、会社としてはもちろん失敗する確率を減らしたいと当然考えるため、プランニングの精度を上げるために時間を使い、その出来上がったプランを予算の範囲内で可能な限り意図通りに表現するために、撮影や、制作、編集などを何度か確認しながら一つのクリエイティブを作り上げていくことになる。また、工程が多いということは、当然それぞれの専門技能を持ったスタッフの数も増えていくことにも繋がる。このように、広告施策の実行というのは、実は取り扱う広告クリエイティブの種類によって、関わる人の数、かかるお金と時間が変わってくるのが一般的である。この点から考えると、一番フットワークが軽く、広告運用の担当者が自分でABテストを完結してスピーディーに行えるのがテキスト広告中心のリスティング広告ということになるわけである。

このように考えると、例えばCRMの領域の業務を選択する場合なども、HTMLメールよりも、テキストメールや、SMSのテキストメッセージ、Lineの配信などの方がクリエイティブワークを自己完結しやすいため、人材育成に選択する項目としては適していると言える。

今回は、例として、広告運用とCRMの具体例で狭く深くの選択肢となる業務について考えてみたが、最初にどのような業務をアサインするは、マーケティングの基礎体力強化のスピードに深く関係してくる。正しい業務にアサインし、3つの要素をコントロールしながら、出来るだけPDCAを正しく早く回す訓練の機会を提供し、その実施が正しく行えるように教える人間がサポートする。これから、自分のチームで人材育成をしなければいけないマーケターの皆さんは、「誰に、何を、何時伝えるか?」を正しく、スピーディーに学びやすい業務が、自部署のどの業務なのかというのを是非見直していただき、その業務に狭く深く取り組む機会を教えられる人材に提供して上げてもらいたい。

教えなければ人は育たない

実は人を育てているつもりになっている組織が多い

マーケティングの人材育成の話を具体的にしていく前に、マーケティングに関わらず人材育成一般について、少し話をしておきたい。これは事業会社3社で25年仕事をしてきて確信している人材育成の絶対条件であるが、「人は教えなければ育たない」ということである。これも物凄く普通のことをいっているように聞こえるかもしれないが、実は多くの会社で実行できていないポイントであると考えている。

なぜこのようは当然のことが実行されていないケースが多いのか私なりの考えを説明する。人材育成という視点で人材を見ると、私は大きく分けて2種類の人材がいると考えている。それは「放っておいても育つ人材」と「教えなければ育たない人材」である。ちなみに「教えても育たない人材」というのも中にはいるのは事実だが、このような人は残念ながら人材育成をどうするかを考えるのではなく、採用段階できちんとスクリーニングしておくべき課題であるため、人材育成という視点では検討しないことにする。

20年以上マネジメントを経験し、数百人の部下を見てきた経験から、「放っておいても育つ人材」というのはそれなりにきちんとしたスクリーニングを採用時点でしている会社であっても20-30人に一人程度の割合でしか出現しないと考えている(外資系投資銀行や外資系戦略コンサルのように超優秀な人材を選びたい放題の企業は違うかもしれないが)。もしその基準が正しいとすれは30人いたら28人程度は「教えなければ育たない人材」ということになる。なお、ここで勘違いをしないでいただきたいのは、「教えなければ育たない人材」を優秀ではないと私が定義づけている分けではないということである。これは人材育成時点の手法の違いの話であって、スピード感に若干の違いが出たとしても、最終的にスキルを習得し、経験を積むことによって、プロフェッショナルな人材に育てば結果的にタイプがどちらであろうと関係がないと思っているし、後述するが、「放っておいても育つ人材」にも欠点もあるので、そのような人材だけ集めることが必ずしもよいとは限らない。

人材育成をしたつもりになっている組織の典型

では、この2タイプに分けることがとりあえず正しいとして、なぜ、「教えなければ育たない」というある種当然とも言える前提が無視されて、きちんとした人材育成が行われなくなってしまうのであろうか?

まず最初に思いつくのは、管理職やマネジメントになっている人物の多くが「放っておいても育つ人材」で固められてしまった会社である場合に発生することが想定される。そのような会社というのは、多くの場合、人材育成に力を入れていないケースが多いため、「教えないと育たない人材」は教えてもらえないので育たないケースが多く、結果として「放っておいても育つ人材」が社内で目立つ確率が高くなる。そうなると、マネジメント層は、自分の成功体験から、若いころは自分で積極的に勉強して這い上がってくるべきだというような思想が強くなる。それで、最近の若者(おそらくこの言葉はどの時代も永遠に使われるのだと思うが)はやる気がないとか、根性が足りないといった精神論になったり、そもそも採用力が足りないというように入社する人材の質を問題視したりする。しかし、私の仮説が正しければ、きちんとしたスクリーニングをしても勝手に育つ人材は1/30~1/20程度である。採用力をこれから短期間で20~30倍も強化して、良い人材選びたい放題という状況にする方法など思いつくのだろうか?もしそれが思いつくのであれば、その会社の現状の採用が相当イケていないので、致し方ないのかもしれないが、普通に全うな企業であれば、そのようなことはほぼあり得ないであろう。このような会社は往々にして、マネジメント上位レイヤーのトップダウン型の経営になりがちで、それ以下の人材は上司のいうことを実行するという状況に陥りがちで現場の人間はは自分で考える余地をどんどん狭められるので、ますます人は育ちにくくなる。

次によくあるパターンは、マーケティング組織の議論の中で説明した、人材育成に適さない組織形態を適用してしまっているパターンである。ファンクション型組織ブランド別組織を十分に人数が揃っておらず、個々人のスキルレベルも十分でない状況で無理やり適用してしまうと、各組織の各ファンクションにスキル不足の人材がそのファンクションの指導を受けられない状況で孤立して仕事をする状況になることが多い。このような状態になってしまうと、当然ながら成長するために必要な教えてもらう機会が減ってしまうということになる。

最後に思いつくパターンは、人数が足りない組織などで、やることがいっぱいあり、日々忙しくしていたりすると、経験を積めているから成長するのではないかと勘違いしてしまうケースである。このケースは、2パターン目の孤立状況と同時並行で発生するケースが多い。上手く回っていない組織というのは、大抵の場合、やるべきことの取捨選択が出来ておらず、いろいろなことに手を出してはリソースが足りなくなり、オペレーション業務ばかりが増えていき、メンバーが忙しく働かざるを得なくなっていることが多い。そのようなケースにおいて、忙しく遅くまで仕事をしていると、人よりも多くの経験を詰めているから、成長スピードも上がっていると思いがちである。しかしこのケースでも、作業はこなしているが、教える側にも余裕がなかったりするので、実際には教えられるべき人材は教えてもらっていないケースが多い。こうなるとやはり大半の人材は順調には育成されないということになる。

一度自分の所属していたり、マネジメントしている企業や組織の状況を見直してほしい。人材を育成するために、日々「教えている」であろうか?振り返ってもらいたい。

放っておいても育つ人の育成法

ここまでで、意外と「教えなければ人は育たない」という当然のことが出来ていない組織が多く存在しそうだということを理解したうえで、今度は人材のタイプ別の育成方法についても簡単に振れてお行くことにする。

まずは、簡単な「放っておいても育つ人材」の育て方である。このタイプの人材は、基本的には機会の提供を十分に行うことと、モチベーションの管理を行うことの2点に注意すれば自走して成長していく。前述したこのタイプの人材で大半のマネジメント層が構成されているような企業の場合、出世する人は結果的に提供された、もしくは、つかみ取った機会を活かして、自ら学び成長できた人の集まりであることが多いのだ。

もちろんこのタイプの人材も能力レベルには個人差があるため、機会の提供スピードにはコントロールが必要である。一つ一つの課題が中途半端にならないように、集中して取り組めるような環境を作ることが重要で、一つの課題が十分に要求したレベルにまでスキルアップをしていないのに、次々に別の課題を与え過ぎるということがないようにしなければいけない。

また、このタイプの人材の独学力・スピードは、その人材の業務に対するモチベーションと密接に絡むことが多い。このため、成長スピードを早めようと思うのであれば、同時に高いモチベーションを保ち続けられるように配慮する必要がある。

教えなければ育たない人を育成するための3つのポイント

次に「教えななければ育たない人材」についての育成上の考え方について検討する。まず最も重要なことは、教えられる人材に誰が教えるのかを明確にすることである。よくチーム全体で教育するという考え方のケースもあるが、個人的には上手くいかないことが多いような気がする。なぜなら、高成長を実現しようとする会社は大抵の場合人材は不足気味で忙しいし、忙しくもない会社ではおそらく人が育っていないなどという悩みもないであろう。そのような悩みを抱えている会社は基本的に現場は忙しいものだと思っている。そのような状況で、人材育成の責任の所在を曖昧にしていまうと、大抵の場合人材育成が中途半端になる。なぜなら、目先の業務の実施の有無は会社の業績や、個々人の目標KPIのパフォーマンスに反映されやすいが、人材育成の実施の有無は目に見える形で反映されないことが多いため、責任を曖昧にするとどうしても後回しにされやすい傾向があるからだ。これもよくいう話であるが、人にものを教えるということは、自分の復習にもなり、教える方の成長に繋がることも多い。このため、教える機会は成長を促したい人材にこそ機会として提供すべきであると考えている。

次に重要なことは、一度に教えることを増やしすぎないということである。私はこれを「狭く深く」と呼んでいる。もちろん逆は「広く浅く」である。マーケティングに限らず、多くの仕事というのは、それっぽくやろうと思えばそれっぽく出来てしまう。人間、一度その程度でよいという癖がついてしまうとどうしてもそのレベルで終わってしまう。しかし、スキルの高いプロフェッショナルと、それっぽい普通の人の違いは、一つの事象、一つのタスクに対して、どれだけ多面的に考え、どれだけ競合よりも深く思考しているかの積み重ねにより作り上げられるものだと思う。もしそうであるならば、人材育成において重要なことは、狭くても良いので、一つの事象に対して、どれだけ狭く深く考えることができるのか、それを習慣として妥協しないように出来るようにするトレーニングをすることだと考えている。そのためには、一度に多くの課題を与え過ぎてはいけない。トレーニングが足りていない人材は、一度に多くの課題を与えてしまうと、思考が分散化し、浅くしか考えないようになってしまうのである。私は、これが教えないと育たない人材にいくら経験を積ませてもスキルが向上しない原因であると考えている。日々のオペレーション業務に追われてしまうと、作業をこなすこと、スケジュール通りにタスクを終わらすことに焦点が当てられ、必然的に深さが足りなくなり、タスクが終わったことで満足してしまうのである。一つ一つのタスクをそれなりの形にする事だけでは、人のスキルレベルはプロフェッショナルレベルまで向上しない。それでできるのは、普通の人がそれっぽく出来るレベルの経験が積まれるだけなのである。ここで議論しているのは高い専門スキルを持つ人材をどのように育成するかの議論をしているわけなので、当然要求されるクオリティはプロフェッショナルなレベルである。

もちろん、そのような人材を育てるためには、教える側の人材にも当然そのレベルの思考が要求されるが、この点でも課題の範囲を狭くすることは有効である。なぜなら、広く深く考えられる人材というのは当然限られるため、そのような人材しか教える側に立てないということになると、教える側の人材が相当限定されてしまう。しかし、教える側が深く考えられる課題を正しく選択すれば、その範囲内であれば深みのある指導ができるようになる。このことは、限定された分野の課題であっても深く思考するトレーニングが完了していない人材は残念ながら教える側にまわる資格がないということも同時に意味することになる。

そして最後のポイントは、繰り返すことである。人間の成長というのは、一次関数的に一直線に右肩上がりに進むことは非常に稀だと思う。多くの場合、螺旋階段のように下から見ると同じ場所をグルグルと周りながら、横から見ると少しずつ上に登っていく軌道で成長するものである。

私はゴルフをすることは早々に諦めたが、もしプロのコーチに正しい打ち方を一度教わって、一度で正しい打ち方を習得できるとしたら、殆どの人は数週間でシングルプレーヤーに成れるだろう。しかし、実際にはそんなことはあり得ない。一度正しいフォームを教わって頭で理解したとしても、頭で思い描いたように体は動かない。そのために、何度も何度も素振りをしたり、練習場でボールを打つなどの反復練習をすることで、正しいフォームが身についていくのであろう。そして、正しい指導を継続的に受ければ、同じような反復練習であっても、少しずつ理想のフォームに近づいていき、スコアも改善していくのだろう。

おそらく、ゴルフに限らず、スポーツでこのような話をすると、多くの人が同意してくれると思う。それなのに、ビジネスのスキルの話になると、一度指摘したことが出来ないと能力がないであるとか、意識が足りないであるとか言い始める指導者がいる。しかし、私はビジネスのスキルの習得もスポーツのスキル習得と何ら変わらないものだと思っている。要は、学ぶ側も教える側も忍耐が必要なのだ。螺旋階段を登っていると同じ場所をグルグル回っているのではないかという錯覚に陥り、自分が成長しているのか不安になるかもしれない。でも、それは普通のことなのだ。

この不安を解消・軽減するためには二つのことが重要である。その実行者は教える側、教えられる側双方をよりいちレイヤー上から指導する先輩社員や上司である。まず教える側には、それが普通なことであるということをきちんと意識させることである。特に優秀な人材ほど過去の自分よりも成長スピードが遅い後輩にフラストレーションをためる傾向にある。人の成長には個人差があることを理解し、忍耐が必要なことを理解させなければいけない。

次により重要な点は、教え、教えられている二人が、少しづつでも成長している、階段を登っているのか、それとも無限ループのように停滞しているのかを定期的、客観的にチェックし、登っているのであればそのことを具体的に指摘しモチベーションの維持向上を計り、逆に停滞しているのであれば一緒に問題点を話し合い再び成長軌道に乗せるためのサポートをしなくてはならない。

ここまで読んでいただいて、自分の組織を見返したとき、あなたは本当に人材を育成していると自信をもって言えるであろうか?自分で書いていていうのもどうかと思うが、私自身も完璧に出来ているとは思わない。しかし、少なくても、ここで書いたようなことは常に意識し、実践しようと努力をしてきた。人材の育成とは、一朝一夕には行かない長い道のりの仕事である。しかし、1年たち、2年たち、短期的な視点でグルグル螺旋階段を回ってるように見えた人材が、振り返ってみて大きく飛躍していることを確認出来た時、これほど達成感のある仕事もないのではないかと思っている。

「教えなければ人は育たない」。何の目新しさもない、ごく普通の指摘である。でも、実は重要な事なのではないかと私は考えている。

マーケティングは専門ファンクション

日本企業でのマーケターの地位は著しく低い

よほど恵まれていて、給与などの条件が良い会社でない限り、自分の部署には十分以上に優秀な人材がいて、人材育成に困ったことがないという企業というのはそう多くはないと思う。25年近く社会人として働いてきたが、そんな贅沢な状況の会社の話は、残念ながら聞いたことはない。

人材不足を解決する方法は、2~3つくらいしかなく、採用強化、人材育成、退職防止といったところだろう。もちろん採用についても最近は様々な手法も出てきているし、様々な検討事項はあると思うので、機会があれば別途議論したいと思うが、ここからは中長期的に影響が大きいと思われるマーケティング人材の育成について考えていきたいと思う。

まず、大前提として理解が必要な点は、マーケティングというのは専門的なトレーニングを受けて始めてパフォーマンスを向上させることが出来る専門的なファンクションであるということである。なぜ最初にこのような話をするのかといえば、日本企業において、この認識が著しく低く、マーケターという職種の地位が非常に低く見られていることに強い不満を持っているからである。

では、なぜマーケティングが日本において地位の低い立場に追いやられてしまっているのであろうか?この点について考えることによって、それぞれの会社で本当にマーケティングの人材が育つ環境にあるかどうかを見つめなおしてもらいたい。

マーケティング職を人事ローテーションに組み込む愚行

まず一つ目の問題点は、日本企業、特に伝統的な大企業においていまだに残っているゼネラリスト志向や、それに紐づくファンクション横断的な人事ローテーションの仕組みである。私自身が自分を日本において珍しい存在だと勝手に自負している理由は、これまで様々な会社のマーケティングの責任者といわれる人に会う機会があったが、日本において20年以上一貫してマーケティングを事業会社でしてきたという人に殆どあったことがないからである。唯一の例外は、外資系のトイレタリー系のブランドマネージャー出身者で、それが理由でExecutive Search会社等でマーケティングの責任者的な人を探すとそのようなキャリアの人材をしょうかいされることが多そうなきがする。おそらく、日本において一貫してマーケティングのキャリアを積める環境がいかに少なく、結果として彼らが日本のマーケターの人材輩出企業として大きな地位を占めている証拠だと思う。逆に言えば、それ以外の企業の出身者で、胸を張って自分はプロフェッショナルのマーケターとして事業会社でキャリアを積んできたと言える人材が日本には非常に少ないということなのだと思う。そして、その一つ目の原因が、この人事ローテーションの仕組みだと考えている。

では、なぜマーケティングというファンクションが人事ローテーションの一つのポジションとして扱われるのであろうか?私はその原因が本項の主題であるマーケティングが専門的な機能として認められているかどうかの認識にあるのだと思う。結論から言うと多くの日本企業においてマーケティングは専門職とは認められていない。

ここで、専門職という言葉をどのような定義で使っているのかということであるが、分かりやすく言うと「専門的なトレーニングを受けることで始めて実施可能な職種」という意味合いで考えている。分かりやすい例が、医者や弁護士など専門の国家資格を取らないで出来ない職業であるが、そこまで行かなくてもWebエンジニア・プログラマーやデザイナーなども例え国家資格のようなものはなくても、当然専門的な教育・トレーニングを受けるか、独学でもある程度の勉強をしないと企業においてお金をもらってプロフェッショナルとして働くことは出来ない職種だ。例えば、金融機関に就職して、最初の3年くらいどこかの支店で仕事をした後の人事異動でシステム部門のプログラマーという辞令が出ることがあるのであろうか?製薬会社の営業で採用された文系出身の人材に人事異動で新薬開発の研究職の辞令が出るだろうか?可能性がゼロとは言わないが、現実的には相当可能性は低いのではないかと思う。

ではなぜだろうか?それは、明らかに短期間でパフォーマンスすることが期待できないからだと思う。まず、その人の教育的なバックグラウンドや素養・資質について、その職種に適性があるかどうかも分からない。また、それぞれの職種でプロフェッショナルとして仕事をしている人は、それなりの年月のトレーニングと経験をもとに現在のパフォーマンスをあげているわけで、全く未経験の人材を頭数としてアサインしたところで、明日からパフォーマンスをすることなど、ほぼ不可能だ。いずれにしても、非常にリスクの高い人事異動になることは間違いないわけである。

このように考えれば、マーケティング部門を会社での人事ローテーションの一環として組み込んでいる企業は、前提としてマーケティングを専門的な機能と認めていないということである。

そのように考えると、次の問題が出てくる。何歩か譲って、ある程度経験を積んで、新卒から比べれば年齢も上がってきた人がマーケティング部門に異動するというローテーションは良いとしよう。マーケティングに人材が足りないのであれば、やる気があってマーケティングをやりたいという人材には前向きに機会を提供すべきだと思うからである。

でも、百歩譲っても許容出来ないのは、ローテーションの名のもとに、2-3年マーケティングをした後で、マーケティングも出来ますという顔をしてまた別の部署に異動していくようなやり方である。あまりどういうメリットがあるのか私には分からないがゼネラリストといわれる人を大量に量産するということが目的なのであれば、それでも良いかもしれない。もちろん、驚くほど優秀な人材で普通の人が10年かかって学ぶことを2-3年で習得出来てしまう人にもそれは合理的な判断かもしれない。しかし、そのような特殊な人材でない限り、2-3年程度の経験で、現在の多様化したマーケティングの各ファンクションのスキルを高次元に習得し、ハイレベルなマーケティングプランを構築し、実行・管理し、パフォーマンスをあげることなど難しいと思われる。これまでおそらく500人以上のマーケターの面接をし、2-300人以上のマーケーターを部下として見てきたが、2-3年でそのようなパフォーマンスを挙げられるだろうと思える人材は多くて一桁の後半くらいである。申し訳ないいが、現在のマーケティングは、2-3年くらいでハイレベルな人材になれるようなものではないのである。

行き過ぎた広告代理店への依存

というわけで、専門職たるマーケティングを人事ローテーションに組み込むことの不合理がご理解いただけたのではないかと思う。しかし、反論として、日本企業はそれでも何とかやっていけているではないか?マーケティングがそれなりに出来ているのではないかという声が聞こえてきそうな気がする。実は、そこには日本特有の理由がある。それは、広告代理店の存在である。そして、これが日本においてマーケターが育たない2つ目の理由である。誤解を恐れずに言えば、日本においける広告宣伝活動を中心としたマーケティング活動は、企業のマーケティング部ではなく広告代理店がその役割を担ってきたという部分が非常に大きいと感じている。これは、3年半米国でマーケティングをして実感したことだが、米国を始めとする西洋諸国では、マーケティングは基本的にはインハウスで行い、広告代理店はメディアバイイングなどマーケティングの一部の機能を担うという位置づけにすぎない。

これに対して日本はどうだろうか?私はそういう仕事の仕方をしたことがないので、非常に偏見に満ちたイメージなのかもしれないが、想像する実態とはこんな感じな気がする。

事業会社側のマーケティングの担当者は非常に大雑把な問題点や売りたい商品のコンセプトのようなものを決めて、それを代理店にオリエンテーションする。そして、代理店のストラテジックプランニング(ストプラ)チームの若者が必死に考えてきたプランや、場合によってはコンペで複数の代理店が出してきたプランに対して、それっぽい文句や質問を付け加えながら、最終的にその中から一番よさそうなものを選択する。そして、社内に持ち帰って、多少真面目な人であれば、その提案を社内のPPTのテンプレートに変換して、酷い場合には代理店の提案書をそのまま企画検討会議のような場で提案する。

一度企画が承認されれば今度は実行フェーズになるが、実際のマーケティング活動の遂行も代理店が行う。事業会社のマーケティング担当者が行うのは、企業側からの素材提供や事業会社内の社内調整が中心となる。そして、無事施策がひと段落すると今度はレポーティングであるが、これも当然作るのは広告代理店である。結果が良ければ、みんなハッピー。でも、結果が悪ければ、そのプランを選択したのが自分であるにも関わらず代理店の担当者になぜ上手くいかなかったのかと詰め寄るわけである。

と、はっきり言って、相当悪意と偏見に満ちた想像をめぐらせたわけだが、残念ながら日本企業のマーケティング組織で実際に行われている現実はこれに近いのではないかと思う。これも想像だが、これまで多くのマーケターの面接をしてきた経験でいうと、この傾向は特に大企業において強いように感じる。私は面接時に、それまで実行したマーケティング施策の具体例の説明をしてもらうが、何度かキャッチボールをすればその内容を自分で考えたのが、人が考えたのかくらいは見分けがつく。傾向として、大企業でマーケティングをしていたという人材で、自分で考えて、試行錯誤しながら成功でも失敗でもしたのだろうと感じられる人材に出会える確率は非常に低い。

では、ここで質問。このような広告代理店の使い方をしている事業会社のマーケターはマーケティングをしているのだろうか?おそらく、伝統的マーケティング中心のマーケティングであれば、マーケティングの仕事の比重はある程度プランニングに置かれるので、プランニングフェーズの半分か1/3程度はマーケティングの仕事をしているのかもしれない。しかし、デジタルマーケティングの世界では圧倒的にDCAにマーケティング活動の比重がおかれ、その部分を代理店にお任せしてしまっては、殆どマーケティング活動をしているとは言えなくなってしまう。なぜなら、実行フェーズで行っているのは、社内調整と社内報告だけだからである。しかし、日本の代理店は優秀かつ忍耐強いため、そのようなマーケターがマーケティングをしているようにふるまえるサポートを全力でしてくれるのである。(ここまで言うと、それなら日本においては広告代理店がマーケターの輩出企業になれるので、問題ないのではという疑問が出てきそうで、その指摘はもっともだと思うが、この点については長くなるので、また別の機会に議論したい。)

優秀なマーケーターは育成可能!

ここまでくると、なぜ日本においてマーケティングの専門性が軽視され、人事ローテーションの一部に組み込まれ、数年間マーケティングを経験しただけでマーケターであるかのようにしている人が多くいるのか、逆に言えば本当にマーケティングのプロフェッショナルといえる人材が一部の企業の出身者に限られてしまうのかということが、ご理解いただけると思う。

よいマーケターを育てるには時間がかかる。でも育てられない分けではない。適性のある人材を選び、時間をかけ、計画的に経験を積むことによって、高いレベルの人材に育てることは可能である。

本章ではマーケティングを専門機能とみなし、それを担う人材をどのように計画的に育成していくのかの考え方を検討していきたい。

その組織変更って本当に必要?

頻繁に組織変更がされる会社の悪循環

組織の最後のパートとして、簡単に思っていることをひとつ話しておきたい。組織の話がこれで最後というと、このBlogを読んでくださっているかたには、他のパートと比較してあっさりしていると感じられる方がいるかもしれない。結論として、そのご指摘は非常に正しい。なぜなら、私はこれまで3つの会社で経営の立場/経営に近い立場で仕事をしてきたが、結論から言って組織論の話が好きな経営者に経営能力が高い人というのは余りいないと思っている。このような経験から、私自身は、今回お話ししたようなポイントを検討して一度組織の骨格を作ったら、それなりの長期間その構造はいじらないようにしている。事実、楽天で5年くらい、大手ゲーム会社で5年半、トライトで3年半ひとつの部署をマネジメントしたが、それぞれで自分が一度決めた組織の骨格は一度も変更したことがない。

一方で、事業が上手くいかないと、やたらと組織変更と人事をいじりたがる経営者というのをこれまで多く見てきた。私が良い経営者であるかどうかは棚に上げておくとして、私なりになぜ、そのようなことが起こるのかを述べてみたい。

私の見てきた事例から思うのは、組織と人事をいじりたがる経営者の一番の共通点は、自社の事業を深く理解していないことである。読者の方からすれば、そんなことがあり得るのかと思うかもしれないが、じつはそんなことは全然あるのである。そのからくりはこんな感じである。複数の事業を多角的に展開するある企業は、ある事業が上手くいかないと定期的に事業責任者を入れ替える人事異動を行いがちとなる。最初のうちは事業部内から内部昇格をしてきたが数年たってその人材プールも尽きてしまったので、次第に他の事業部からの異動者が事業部長のポジションにつくようになった。ただ、その事業のパフォーマンスは一向に改善せず、相変わらず事業責任者は定期的に変更され続けている。

このような環境の場合、そもそも事業部長の在籍期間が短すぎて、事業部の現場のメンバーと比較して事業部長がその事業の理解度が高いという状況になる可能性は非常に低い。このため、事業パフォーマンスが悪い時に、何が問題なのかを自分で考えられず、自分の部下に聞くというソリューションを多様することになる。しかし、現場に近い部下が問題点を理解しているのであれば、少なくても問題は改善の方向に向かっているはずである。このような状況になると、新任の事業責任者というのは一向に自分の事業の本質を深く理解できるようにならない。

では、そのような時に事業責任者ができることは何であろうか?上司にパフォーマンスが上がらない説明しようにも部下の受け売りプラスアルファくらいの事しか言えない。そもそも、自分でも原因がわからないのであるから、それしかしようがない。ただし、何もしないわけにも行かない。どうしよう。。。。

組織変更と人事異動って経営している気分になれるお手軽手法

こういう時に登場する素晴らしいソリューションが、組織改編と人事異動である。なぜそうなのであろうか?その答えは簡単である。組織改編とか人事異動というのは、自分の配下であれば100%に近い形でコントロール可能なことが多いからである。また、変更のBefore/Afterの比較をして、現状の問題点を列挙し、Afterでその問題点を解決する方法を説明することも容易である。そうすると、なんとなく考えて経営をしているように自分でも感じられるし、周りからもそうみられている気になれるのである。

しかし、私の経験上、ある事業やある組織が上手くいっていないとき、本質的な理由が組織の部署の分け方に起因していることは実は余り多くない。一方で、これまで見てきたように、組織というのはあらゆる状況にオールマイティに適用可能な組織形態などというものは存在せず常にメリットとデメリットが共存する。そのような性質のもののBeforeの悪い部分とAfterの良い部分を並べてこちらの方がよいなどという改善策はそもそも改善策になっていないケースが多いのである。

さらに良くないのは、組織変更に飽き足らず、人事で人を置き換えるパターンである。人事も経営者のコントロール可能な権限であることが多いが、そもそも上手くいっていない事業を人を入れ替えて上手くいくようにしようというソリューションは問題が本当にその人にあったのか、それ以外のところにあったのかが分からなければソリューションになっていないことが多い。

もちろん、その事業の主要なポジションにいて、なぜ自分の事業が上手くいっていないのか正しく説明出来きず、周りに納得してもらえていないのであれば、交代させられるその人にも問題があるが、私はその人が一人でやり切れていないのであれば、上司である人間が一緒に考えて、その問題を解決できるように導いていくのが上司の責任であると思う。それをしないで、担当している人間に問題があると人を繰り返し入れ替えるようなやり方で事業が改善した姿をこれまで見てきて殆ど経験したことがない。例外的なのは、交代前より格段に優秀な人が入ってくるというケースであるが、結構稀なケースである。なぜなら、そんな候補者がいれば、真っ先にその人に任せるであろうからである。

事業というのは、上手くいかなくなった際、なぜ上手くいかないのかを理解するのが非常に複雑で難しかったりする。特に事業の規模が大きくなり、関わる人数が多くなると見えにくくなるものである。そうなると、どうしても分かりやすいところに答えを求めたくなる。私はその代表が組織変更と人事だと思っている。

組織論などというのは、その組織形態の本質的な問題点をきちんと理解して、その組織の置かれている現在地を正しく理解して、決めてしまえば、そう簡単に違う組織にした方がよいというような状況にはならないものだと思っている。私は、上手くいかなくなった事業が、頻繁に組織変更をしだすと、結構わかりやすい黄色信号のサインなのではないかと思っている。

私の議論の中で組織の話が薄い理由は、そんなわけである。貴方の所属している組織は大丈夫?

マーケ組織内の分化手法2:ブランド別組織

今回は前回に引き続き、マーケティング組織内の組織編制の手法について紹介する。今回は、商品やブランド、サービス毎にチーム編成を行うブランド別組織についてである。

  • メリット
    • オペレーションが1チーム内で完結するためディレクションがしやすい
    • メンバーが1ブランドに特化して業務をするためタイトル理解が高めやすい
  • デメリット
    • ファンクション毎の情報共有がしずらくなるため、専門スキルの向上がしずらい
    • 専門スキル人材がブランドごとに孤立するため育成がしずらい
    • 1ファンクションに1名アサインしようとすると組織の人数規模が大きくなる
  • 向いている組織状況
    • 各ファンクションのノウハウがある程度確立されている
    • 各ファンクションにスキルのある人材をアサイン可能
    • マーケティング組織全体の人員数が十分に確保出来ている
  • 実施できる条件
    • 経験豊富な人材が確保できる大規模なマーケティング組織

ブランド別組織のメリット

  • オペレーションが1チーム内で完結するためディレクションがしやすい
  • メンバーが1ブランドに特化して業務をするためタイトル理解が高めやすい

ブランド別の最大のメリットは、実際のオペレーションと組織の切り分けが一致しているため、オペレーションが一つのチームで完結しやすく、チームリーダーのディレクションが効きやすいという点が挙げられる。このため、マネジメント経験が少ないディレクション担当には適した組織形態であるといえる。

ブランド別組織のデメリット

  • ファンクション毎の情報共有がしずらくなるため、専門スキルの向上がしずらい
  • 専門スキル人材がブランドごとに孤立するため育成がしずらい
  • 1ファンクションに1名アサインしようとすると組織の人数規模が大きくなる

一方で、ファンクション別の情報共有や専門スキルの人材トレーニングの機会は大幅に限られて来るため、専門スキルが十分に備わっていない人員が組織構成の場合は、各ファンクションのパフォーマンスの改善スピードがファンクション別の組織と比較して遅くなる傾向にある。また、各ブランドの各ファンクションの専任担当をおこうとすると必要な人員数はブランド数×ファンクション数となるため、組織規模は相対的に大きくなる。その人数が揃わないのに無理やりブランド別の組織を適用しようとすると、①ブランド別チーム内でファンクションの兼務が多発する、②特定のファンクションだけタイトル間を兼務する人員が多発するのいづれかが発生するが、①の場合は残念ながらその他担当のような扱いになってしまった人材はいつまでたっても専門スキルが身につかないという状況になりがちであるし、②の場合は、担当者の専門スキルは実質的にファンクション別組織に近くなるため向上の可能性は高まるが、ブランド別組織のメリットであるチームの一体感やディレクションのしやすさは低くなり、ブランド別の組織形態にした意味が低減する。

ブランド別組織が向いている組織状況

  • 各ファンクションのノウハウがある程度確立されている
  • 各ファンクションにスキルのある人材をアサイン可能
  • マーケティング組織全体の人員数が十分に確保出来ている

一言でいえば、スキルがある程度高い人材を各チームの必要ファンクションに十分にアサイン出来る規模の組織に向いている組織形態ということになる。

ブランド別組織が実施できる条件

  • 経験豊富な人材が確保できる大規模なマーケティング組織

繰り返しになるが、ブランド別の組織というのは、一見よくあるマーケティング組織の組織形態であるように思えるが、3点の向いている組織状況を確認すると、成熟したマーケティング組織に適した組織形態であると言える。逆に、マーケティング組織のメンバーがトレーニング途上、成長途上である比率が高かったり、そもそも会社全体でマーケティング組織の強化や手法の転換を計るというようなフェーズにおいては、人材の成長や、組織・手法の変革スピードが上がりずらいという欠点がある。

現実的には、マーケティング組織の置かれている状況に応じて、ファンクション型組織とブランド別組織のハイブリッドのような形になることが多いのではないかと思われる。ただ、マーケティング組織が50人以下くらいの規模であれば、ファンクション型の組織にすることをお勧めする。専門スキルを向上させて行くためには、PDCAの高速回転により経験回数を増やし、自他の成功・失敗事例の情報にアクセスして学ぶ機会を大きくすることが必要である。しかし、単純な割り算をしてみれば、分かるが、タイトル数×ファンクション数の数字で組織の人数を割ったときにその数字が2以下になる場合は、組織内の多くの役割において一人で孤立している人が発生していることを意味している。そのような状況は出来るだけ避けるべきであると考える。

マーケ組織内の分化手法1:ファンクション別組織

マーケティング組織内の分化パターン2種

ここまでで、まずはマーケティング組織の会社全体の中での位置づけというものを考えてきたが、それが決まったとして、次に考えるべきはマーケティング組織内の役割分担をどのようなロジックで作っていくのかという点である。本項での議論の前提は、一つの会社やマーケティング組織が複数のサービスやブランドのマーケティングを担うケースなので、もし自分の会社が1サービス1ブランドしか提供していないという場合は読み飛ばしていただいて構わない。

ここからの議論は、具体的な例として、ゲーム会社の集約・セントラライズ型マーケティング組織を例に考えてみることとする。

それなりの規模のゲーム会社になれば大抵の場合、1社1タイトルということはほとんどなく、多くの場合複数のタイトルを並行して開発、運用していることが殆どである。

このため、集約・セントラライズ型のマーケティング組織は、当然同時並行で、複数タイトルのマーケティングを走らせなければいけない。

では、それを実現する組織をどのようなフォーメーションで作るべきなのだろうか?

それを考えるうえで、まず理解を共通化し、具体的にイメージしやすいように、1タイトルのマーケティングをするのに必要な機能(ファンクション)について整理してみよう。最近であれば、下記のようになる。

  • タイトルのマーケティングプランの作成と全体ディレクション
  • デジタル広告
  • インフルエンサーマーケティング
  • コンテンツマーケティング
  • CRM・既存ユーザー向け施策
  • PR
  • オフラインイベント
  • データ分析

それなりに成功しているタイトルで考えると、ざっと挙げてみるとこんな感じではないだろうか?ここで、読者の方に考えてもらいたい。この8つの機能を同時並行で5タイトル走らせるためには、どのようなマーケティング組織を作らなければいけないだろうか?

理論上は2つのパターンが考えられる。①ファンクション別組織、②ブランド(この場合はタイトル)別組織である。ファンクション別組織というのは、マーケティング組織の直下にディレクションチーム、デジタル広告チームなどのように、各機能に特化したチームを組成する組織形態となる。一方ブランド別組織というのはマーケティング組織の直下にブランド毎にチーム分けをして、その各チームが上記の8機能のすべてを担う組織形態を想像してもらいたい。話としてはファンクション別組織が会社全体の集約・セントラライズ型組織に近く、ブランド別組織が分散型組織に近いと考えてもらいたい。

組織論というのは、基本的に絶対的な正解があるわけではなく、各企業・組織の課題や状況に応じて正解が分かれるため、今回もそれぞれの2パターンそれぞれのメリット・デメリットを考えながら、どのような組織にどちらのパターンがフィットするのかを考えていきたい。なお、前述のとおり、この2パターンは会社全体の組織の2類型と基本的な考え方は似ているため、被る部分は省略、簡略化して記載するので、そちらを読んでいない方は、事前に読んでおいていただきたい。

ファンクション別組織

  • メリット
    • 各ファンクション毎の専門性が高めやすい
    • 専門スキルの人材育成が行いやすい
    • 各ファンクション担当者がブランド掛け持ちをすることで全体人数を抑えられる
  • デメリット
    • 各ファンクションを取りまとめるディレクション担当の負荷と要求されるスキルが高い
    • 各ファンクション担当のブランドへの理解が低くなりやすい
  • 向いている組織状況
    • 各ファンクションのノウハウが確立されていない
    • マーケ組織人員のスキル・経験が十分高くない
    • マーケティング組織全体の人員数が十分に確保出来ていない
  • 実施できる条件
    • ファンクション取りまとめのディレクション担当にスキルが高い人材を充てられる

ファンクション型組織のメリット

  • 各ファンクション毎の専門性が高めやすい
  • 専門スキルの人材育成が行いやすい
  • 各ファンクション担当者がブランド掛け持ちをすることで全体人数を抑えられる

集約・セントラライズ型組織の場合と同様に、ファンクション型組織の利点は、各ファンクションの人材を一か所に集め、ノウハウと情報を一元的に共有することが可能なため、各ファンクション毎のスキルの向上スピードが上げやすいことが、最大の特徴とある。また、一人のファンクション担当者が複数のタイトルを同時並行で担当することで、あるブランドの成功事例をスピーディーに別のブランドに横展開できるというメリットもある。さらに、一人の人材が集中的に一つのファンクションに対して経験を積むことが出来るため、人材育成のスピードも早くなるというメリットも実現しやすい。

ファンクション別組織のデメリット

  • 各ファンクションを取りまとめるディレクション担当の負荷と要求されるスキルが高い
  • 各ファンクション担当のブランドへの理解が低くなりやすい

ファンクション型組織の最大の課題は複数チームに跨るメンバーを集約してブランド毎のオペレーションを回さなければいけないため、ブランド毎の統括者・ディレクション担当者に高いスキルが要求されることになる点である。さらに、ファンクションチームの各メンバーは複数のブランドを兼務することになるため、ブランド特化型の組織よりもブランドへの理解が低くなる傾向になる。この問題点は、集約・セントラライズ型マーケティング組織では、事業部側から特に問題視されやすい事項であるため、特に注意が必要となる。そのような問題を顕在化させないためにも、全体のディレクション担当者には事業側との相互理解を高めるためのスキルが要求される。

ファンクション別組織が向いている状況

  • 各ファンクションのノウハウが確立されていない
  • マーケ組織人員のスキル・経験が十分高くない
  • マーケティング組織全体の人員数が十分に確保出来ていない

メリット、デメリットを読んでいただいても理解してもらえると思うが、この組織体系は発展途上であったり、少人数のマーケティング組織において機能しやすい組織形態である。短期間で専門性の高い人材を育成しやすいため、将来的なブランド別組織への以降の前段階の組織体系としても機能する。

ファンクション別組織が実施できる条件

  • ファンクション取りまとめのディレクション担当にスキルが高い人材を充てられる

繰り返しになるが、このファンクション型組織が成功するための条件は、ディレクション担当に良い人材がアサイン出来るかどうかが最大のポイントとなる。もし良い人材がいない場合は、マーケティングの責任者クラスがある程度コミットして、全体を機能させるなどの工夫が必要になる場合もある。事実、大手ゲーム会社在籍時、グローバルブランドの全体のディレクションを出来る人材の要件が高すぎて、私自身がその役目をやらざるを得ないケースなども存在した。