UIの重要性

日本のUIデザインは遅れている?

デジタルサービス・商品の立上げにこれまで二桁以上の携わって来た。新しいサービス、商品が期待通りに立ち上がるかどうかについては、事業・サービスの基本的な戦略やポジショニングなどのロジック的なことが第一に重要であるのは間違いない。戦略関連の話については、競争戦略論という経営学のひとつの研究領域として多くの学者が議論している内容なので、私がここで気軽に話せるわけではないが、私個人のこの点に関する考えや、実務的な事業計画の作り方の注意点などは、こちらに纏めているので、参考にしてもらえればと思う。

という分けで、新しいサービスとか商品というのは、基本的な戦略ロジックが正しくないと上手くいく確率は非常に低くなると思っているが、一方で、戦略ロジックが正しければ必ず成功する分けでもない。以前に、ビジネスが成功するための3要素として、「Strategy, Execution, Operation」という3つの要素が必要だという話をして、特に日本においては、日本語に翻訳することも難しいExecutionの部分が軽視されがちで、このExecutionをどれだけ上手くやるのかでビジネス・新規事業の成否が変わってくるという話をした。Executionというのは、ひとつのビジネスを作り上げるために必要な有象無象の事象を取り仕切らなければいけないので、こうやれば上手くいくという事もないのであるが、私が日米でデジタルサービスを立上げてきた経験から、日本のデジタル系の事業開発で大きく米国から遅れている点を今回は取り上げてみたいと思う。

それは、UI :ユーザー・インターフェースについてである。最近ではUX :ユーザー・エクスペリエンスみたいな言い方もされるが、そもそもよいUIが造れなければ、よいUXも作りようがないので、今回はUIとして話したいと思う(私は別にUI/UXのプロフェッショナルではなく、単純にユーザーによいサービスを提供したいだけなので、そもそもこの二つの違いを厳密に分けて考えたこともないし、考える必要性も余り感じていない)。

 物凄く分かりやすく表現すると、UIというのは、Webサイトであったり、スマートフォンアプリであったりといったユーザーとの接点となるシステムのデザインの事である。ただ、デザインとはいっても、格好いい絵や写真を選んで、見た目を良くするみたいな話ではない。例えば、メニューをどこに置くとか、コンテンツをどのような優先順位で上から表示するとかいうように、そのサイトや画面でユーザーに行ってもらいたい行動を定義し、そこにユーザーが深く考えなくても自然に導かれるように画面全体の構成・レイアウトを考えるというようなに機能的な面に焦点を置いてデザインをしていくという種類のデザイン業務である。

楽天市場のサーチ・ディレクトリ機能を例に考える

例えば、私が昔楽天市場でやっていた仕事のひとつに、楽天市場のサーチとディレクトリ(商品カテゴリーがツリー構造になったもの)のシステムの開発の責任者というものがあった。楽天市場のように、商品点数が何十万~何千万点というレベルでサイト内に存在する場合、楽天市場のトップページに何らかの商品を買おうと思って来てくれたお客さんにどうやってその商品を何十万商品の中から見つけてもらうのかを検索機能とかカテゴリー一覧ページ機能などを開発して考える担当である。いかに直感的に、ストレスなく商品を探せるのかというサービスの使い勝手の良し悪しで、サイト訪問からの購買転換率が変わってくるので、この点から売上アップに貢献しうようというわけである。そのために必要な機能要件をリストアップし、それを画面上でどう配置し、どのようにユーザーに見せるのかを必死に考えるのが、UIを作るという仕事である。

 では、この楽天市場のサーチ・ディレクトリのデザインをする場合に、考えるべきこととは、どのような事なのであろうか?例えば、有名メーカーAのXXという型番のノートパソコンを探しているお客さんがいると仮定しよう。この場合、おそらく一番簡単に商品を見つける方法は、検索ボックスに「A(メーカー名) XX(型番)」と入力するというものであろう。と思って実際に検索をしてみよう。一発で該当のPCが見つけられるであろうか?検索結果画面を見てみると残念ながらそうはならない。楽天市場のようなショッピングモールの場合、有名メーカーの家電商品などは、複数の店舗で販売されていることが殆どなので、同じ商品がいくつも検索結果に表示されてしまう。では、このお客さんが次にとる行動はどのようなものであろうか?おそらく一番多い行動パターンは、どうせ同じものを買うのであれば、一番安いお店から買いたいと思うのではないだろうか?そうすると、検索ボックスへのテキスト入力以外に、検索結果の並び替え(例えば価格の安い順)という機能も必要そうである。ではやってみよう。これで一番安いAのXXを見つけられるであろう。と思うと残念ながら、そうはいかない。価格の安い順で並べ替えをしたら、何やらXX用に造られたモニターの保護フィルムという1,000‐3,000円位の商品が数百件も並び、何時まで経っても欲しいPC本体が出てこない。このような話はよくあることで、メイン商品の周辺機器のようなものは、メイン商品本体の価格よりも安いことが殆どなので、このようなことが起こるわけである。

では、次にとる行動はどのようなものが考えられるであろうか?思いつく方法は3つくらいであろうか?①検索ボックスに「A XX 本体」というようにPC本体が欲しいという意思表示をする、②PCが数千円で変えるはずもないので例えば価格を5万円~と価格帯を指定して絞り込み検索する、③店舗に商品登録時に、PC本体にはPC本体というカテゴリーに商品登録してもらい、保護フィルムのような周辺機器はPC周辺機器というカテゴリーに商品登録をしてもらい、商品カテゴリを限定して絞り込み検索をしてもらう。

どの方法もお目当ての商品が見つかりそうである。が、実はここまで来ても問題があったりする。①~③の検索結果が出て、目当てのPCが並んだので最安値商品を見つけようと再度価格の安い順で並べ替えたところ、上位に中古のPCが出てきてしまうのである。この結果を見て、ある人は「中古のPCという選択肢もあるのか」と思う人もいるかもしれない。「一方で、私は新品のPCが欲しい」と思う人もいるであろう。前者の人は、当初想定していなかった新たな提案を受け入れ中古のPCを買って、想定よりもお得な買い物が出来たと思うかもしれない。しかし後者の人には、中古のPCを除外する方法を考えなければいけない。そうなると、直ぐに考えつく機能は「A XX]と商品名や説明文に記載されているキーワードを指定する機能とは別に、「中古」というキーワードが含まれている商品は検索結果に出さないという除外キーワード設定というものである。ここまでくると、おそらくA社のXXというノートPCの最安値商品が見つけられるようになる。

ショッピングモールサイトで、ひとつのPCを探そうと思っただけでも、こんな感じである。振り返ってみると、

  • テキスト検索機能
  • 価格安い順の並べ替え機能
  • 商品カテゴリーでの絞り込み検索機能
  • 価格帯指定検索機能
  • 除外キーワード設定機能

とひとつの商品にたどり着くまでに、単に検索ボックスにキーワードを入れてもらうだけでなく、4つもの追加機能が必要そうだということになる。

ただ、このケースというのは、実は事例としては相当シンプルなパターンである。これが、「何かよいノートPCが欲しいんだけど。。。」という状態でサイトに来たユーザーであった場合などは、結構途方に暮れる分けである。また、家電商品のように、ある程度商品スペックなどで希望の商品を絞り込んでいけるパターンなどはまだ良い方で、例えば産直品などのように「アジの干物」が欲しいという場合に、「アジ 干物」などと検索しても、ネットで試食も出来ない写真の見た目はほぼ変わらないアジの干物が永遠と出てきて途方にくれる分けである。そうすると、その様な商品を選ぶ基準が必要だという話になり、商品のレビュー機能を付けてレビューが高い順という並べ替え機能を付けましょうとか、必要な検索の機能というのは、どんどん増えていくわけである。

便利機能満載のUIは良いUIか?

と長々と、楽天市場の検索画面を考えるという仮定で、どんなことを考えながらサービスの設計していくのかを疑似体験していただいたが、私の経験上何らかのサービスを便利にしようと思うと、サービスというのはかゆいところに手が届くようにということで、どんどん細かい機能が増えていくことになる。もちろん、ユーザーのITリテラシーが高かったり、そのサイトを使い込んでいて商品の見つけ方を熟知しているヘビーユーザーには、このような多彩な機能というのは便利であり、無くてはならないものかもしれない。しかし、十中八九間違いないのは、機能てんこ盛りで、ボタンがたくさんあるようなサイトというのは、エントリーユーザーにとっての利用ハードルが高いものとなる。それは機能の数が増えるほど高くなってしまう。パッと思いつく例は、たまにTVなどで映し出される飛行機のコックピットの映像である。何十、何百の計器が並び、同じくらいの数のスイッチ類が並んでいる。全く飛行機の操縦の知識がない人が、あそこに座らされて、さあ飛行機を飛ばしてみろと言われてもほぼ100%の確率で、飛行機は安全に飛ばないであろう。

このように考えると、UIの設計をするということは、あらゆるシチュエーションを想定して、便利な機能をいっぱい作って配置するという事でないことは皆さんにも容易に想像がつくと思う。

究極のUIといえる3つのサービスとは?

では、一方で良いUI、便利なUIとはどのようなものなのであろうか?一言でいうと「説明書がいらないUI」が私は究極のUIであると思っている。その意味で私が凄いなと思った代表的なUIを3つあげてみよう。

一つ目は、Google検索である。今も昔も、基本Googleのトップページというのはシンプルに検索ボックスと2つのボタンのみである。GoogleがこれだけITの世界で巨大な地位を占められた最大の理由は、テキストを打ち込んでボタンを推すだけで欲しい情報が手に入るというUIのシンプルさが最大の原因であると考えている。あのシンプルなUIでユーザーが満足する情報提供を行うためには、検索されたキーワードにFitする検索結果を膨大な情報量の中から選び出し、適切な順序で並べて表示するロジック(アルゴリズム)が重要なのであるが、Googleの最大の強みは「適切な順序で並べて表示する」という部分にそれまでのあらゆるサービスにも勝る精度があったため、あれだけシンプルなUIを貫き通すことが出来たことにある。実は、Googleが登場したタイミングで私自身は前出の楽天の検索機能の開発責任者をしていたのであるが、あのUIとそこから得られる結果を見た時に、心の底から「凄い」と思わざるを得なかったし、自分たちの技術力ではこれはマネが出来ないと途方にくれたわけである。

二つ目はこちらも私たちの生活に無くてはならないiPhoneを始めとしたスマートフォンである。現在のユーザーは、iPhoneならiPhoneを何世代にも渡って使い続けているという人も多いので不思議に思わないかもしれないが、はじめてiPhoneを買ったときに、心から驚いたのが、全く新しいコンセプトで、誰もそれまで使ったこともない商品であるにも関わらず、全く説明書がないということと、にも関わらずなんとなく使っていたらスンナリ使い方が分かってしまったという体験であった。それが、Googleの検索画面のように、裏でやっていることは複雑だが、表面上の機能は超シンプルといったタイプの商品・サービスであればそこまで驚くことでもないと思うが、スマートフォンのようにあれだけなんでも出来てしまう汎用性の高い複雑な商品を説明書もなく、皆が結構直ぐに使いこなせるようになってしまったという事実は、UIという視点で考えると本当に凄いことだと思っている。

そして最後が、この2-3年のIT業界の話題の中心であるChat GPTである。UIの考え方としては、Google検索とアイディアは殆ど変わらない。凄いのは、Google同様の超シンプルなUIで、通常の会話と同等のコミュニケーションで汎用的にAIをコントロール出来てしまうサービスであるということである。最初は身構えて、どう指示出しをしたらよいのかを考えていたが、結論としては普通に会話する気分でAIと対話していると、知りたい答えが返ってくるし、逆にまだAIに出来ないことも人間が理解できるようになってきて、上手に使いこなせるようになってくる。AIというテクノロジー自体は、デジタル広告の世界では20年位使われてきた技術であるが、ここまで大騒ぎになっている原因はAI技術自体の発展という側面と同等かそれ以上にChatGPTのUIのシンプルさ、秀逸さが背景にあると思う。

このように見てくると、UIがいかに大事か、一方で、真面目に考えると、思ったりよ難しいということがなんとなくお判りいただけたと思う。私は、いろいろなデジタルサービスの立上げ、開発を振り返って、UIの良し悪しが、サービスの成否に占める比重は結構高いのではないかと思っている。結局ユーザーがあるサービスを使った時に、良いサービスかどうかを判定する際の最終的な判断軸はUIにあるからである。

アメリカのトップUIデザイナーのアドバイス

という前提で、日本のUIデザインの現状をみると、現状UIデザイナーとして仕事をされている方には大変申し訳ない言い方になってしまうかもしれないが、米国と比較してレベルが高いとは言い難いと思っている。それを実感したのは、米国でアプリゲームのビジネスをしていた経験からである。

10年位前の話なので、現状がどうなっているか分からないが、AppleがApple関連のソフトウェアなどを開発する開発者向けに毎年行っているWWDC(Worldwide Developers Conference)というイベントがあるのだが、当時そのイベントのひとつのコーナー(?)として、UI Laboというものがあった。具体的には、例えば今開発しているゲームアプリのデモアプリを持ち込んで、Apple社内のUIデザイナーに見てもらい、改善点などのアドバイスをもらうというものである。

当時私がいたゲーム会社はGlobal向けの商品を作っていて、App Storeの担当者などにデモを見せると盛んにUIが悪くこれではユーザーに推薦出来ない(App Store内で露出して、Appleとしてユーザーに良いアプリとして紹介できない)と言われることが多かった。そこで、このイベントに日本の開発者やUIデザイナーを送り込んで、いま作っているアプリを見せてアドバイスをもらうことにした。後でその報告を聞くと、はじめての時などは、ボロカスに酷評されてしまったたとのことである。それが新興ゲーム会社であれば分かるが、50年近く日本発で世界に向けてゲームを売ってきた企業がである。

その時の話を聞くと、「このボタンはなぜここにあるのか」「このボタンの色はなぜこの色なのか」「このボタンを押した後の挙動はなぜこうなのか?私はこうなることを想定していなかった」「なぜこういうことが出来るボタンがないのか」「なぜここで通信が走るのか」などなど、とにかく「なぜ、なぜ、なぜ」をひたすら質問されたということだ。

それに対して、ゲーム会社の社員は、そこまで質問攻めにされることも想定していなかったし、そもそもそこまで深く考えてそのデザインを作ったわけでも無かったので、その質問に適切にリアクション出来ず、最後に「もっと考えてUIデザインしないとだめですよ。。。」と言われてしまったという感じであった(この会社の名誉のために言っておくと、翌年以降はこの経験を糧に、そもそもデザインをするスタンスも変え、事前の心構え、準備もして参加したので、その様な状況は大幅に改善された)。

なぜ日本でよいUIが生み出せないのか?

ここで問題なのは、なぜこのようなことが起こるのかという話である。私なりにその時考えた原因は、こんな感じである。

  • そもそもUIデザインが重視されていない
  • UIデザイナーのデザイナー内での地位がそれ程高くない
  • UIデザイナーがサービスの開発工程に参加するタイミングが遅い
  • 結果として、UIデザイナーがロジカルにUIデザインを出来る余地が限定される

という4点くらいが原因として考えられる。以下では、日米の比較という観点を交えながら少し詳しく話してみたい。

まず最初の2つは纏めて説明する。

  • そもそもUIデザインが重視されていない
  • UIデザイナーのデザイナー内での地位がそれ程高くない

全員がそうだとは言わないが、サービスやシステムの開発をする際に、本当にUIが大事であるという認識がされているかどうかのレベル感が、日米では大きく異なると思っている。もちろん、日本のサービス開発者に「貴方の開発するサービスのUIはサービスの成功にとって大事ですか?」と質問したら、Noと答える人はいないであろう。その意味では、UIは重視しているということになるかもしれない。しかし、日米両国でデジタルサービスの開発に関わった視点で考えると、日本の重視というのは本当に重視しているとは思い難いというのが本音である。

それが最も顕著に現れるのが、デザイナー・アーティストの給与である。例えば、一本のゲームを造ろうと思うと、一口にアーティストと行っても、ゲームに登場するキャラクターなどをデザインするコンセプトアーティスト、3Dグラフィックのゲームであれば、3Dグラフィックデザイナー、ゲームの背景をデザインする背景アーティスト、そしてUIデザイナーのような4タイプの異なるデザイナー・アーティストが機能として必要になる。プロジェクトチームの規模によって、それぞれのファンクションを専任の人がやることもあれば、掛け持ちで複数のファンクションを担う小規模プロジェクトもある。私の経験したのは、少なくても4人以上のアーティストが1プロジェクトにいるような中規模の制作現場であったため、それぞれのファンクションに対して専門のデザイナーを採用することになる。

で、問題なのはそれぞれのファンクションの人材を採用するときに必要となる給与条件である。私がゲーム制作に関わっていた10年程度前の状況でいえば、米国でもっとく高い給与条件が必要なのはダントツでUIデザイナーであった。よいUIデザイナーというのは数が少ないので、実績のあるよいUIデザイナーを雇おうと思うと、その他のデザイナーの給与の10-20%増しとかのレベルでなく、1.5-2倍みたいな世界であった。一方で、日本ではどうであろうか?おそらく、背景アーティストかUIデザイナーの給与水準が相対的に低いであろう。少なくても私が知る限り、日本のゲーム会社にアーティストとして就職してくる新卒のデザイナーで最初からUIをゲーム会社でやりたいと張り切って入社してくる人は結構レアな人材である。大抵は自分でキャラクターのデザインがしたいとか、高品質の3Dグラフィックを作る技術を磨きたいみたいな人が多いし、大抵入社後優秀なデザイナーはご褒美として希望のファンクションのデザイナーになっていく。

という状況を見ても、正直言って、日本の制作現場で本当に優秀な人材がUIデザインを担っているというケースは一般的に言って多くはないというのは、想像出来るのではないかと思う。給与というのは、基本的には需要と供給のバランスで決まるが、私の経験した感覚では、少なくても日本のゲーム開発の現場でUIデザイナーの給与水準が相対的に高くないのは、採用側の需要が高くない=UIを重視していない(とは言わないとおもうが)ということの最も典型的な証拠である(あった)と思う。

その結果として起こるUIデザイナーが直面する制作現場での扱いが、日本のUIのレベルが低くなりがちなより本質的な原因である。こちらも纏めて解説する。

  • UIデザイナーがサービスの開発工程に参加するタイミングが遅い
  • 結果として、UIデザイナーがロジカルにUIデザインを出来る余地が限定される

WWDCのUI Laboでゲーム会社のUIデザイナーが直面したのは、AppleのUIデザイナーからの「なぜ、なぜ、なぜ」の質問攻めであったという話をした。また、その前に説明した楽天市場の検索UIの話においてもこの機能はこういう需要を満たすために必要という感じで、一つ一つの機能には必ずそれが解決しようとする問題が明確に存在した。

この2つの例から間違いなく分かることは、UIデザインの良し悪しを分けるポイントは、絵を描く(デザインを描く作業)ではなく、どのように様々な要素を配置し、それぞれのユーザーアクションに対してどのような反応を返すのかというロジックの組み立てであるということが分かる。ところが、初年度に参加した日本人の開発メンバーはUSのトップクラスのUIデザイナーのなぜ、なぜの問いかけに明確な答えが出来なかった。つまり、UIデザインをする際のロジックの構築のレベルが低いのである。

おそらく、この原因は2つ存在する。一つ目は、単純に日本のUIデザイナーはUIデザインをするときにそこまで突き詰めてロジックを構築するという習慣が少ないのだ。もちろん日本のUIデザイナーも千差万別があり、個人差があるので一般論で議論することは危険だが、日米2国間の相対比較でいえば、傾向としてはおそらく正しい見解だと思う。なぜそうなってしまうのかといえば、おそらく駆け出しの若いUIデザイナーのときに、先輩のUIデザイナーから求められる、なぜの回数が少なく、突き詰めて考える訓練が相対的に低いからなのであろうと思われる。では、日本でUIデザインをしている人の論理的思考能力が、USで同じ仕事をしている人よりも著しく低いのかと言われれば、根拠があるわけではないが、おそらくそうではないような気がしている。単純に訓練が足りないのだと思っている。そして、なぜ訓練が足りないのかといえば、それは訓練する機会が少ないからだというのが私の答えである。

ではなぜ訓練する機会が少ないのであろうか?これは今回挙げた2つ目の視点である。UIデザイナーがロジックを突き詰めてUIデザインを行うためには、ロジカルに考える余地が大きくなければならない。つまり、どのようなサービスを作るのかの相当初期段階からプロジェクトに参加し、サービスの仕様を決める段階から積極的に議論し、思考をめぐらし、意見を言える状況である必要がある。しかし、私が見てきた多くのサービスの開発現場で、UIデザイナーがその様な理想的なタイミングからサービスの開発に参加できる例はそれ程多くない。大抵の場合は、事業責任者とUIデザイナーを含まない少数の人間でサービスに必要な機能などの要件を考えて、仕様を決定する。そしてそれを仕様書に纏めてシステム開発チームやUIデザインチームに渡して形にするというのがよくある開発プロセスである。

このようなプロセスでプロジェクトが進むと、UIデザイナーが出来ることと言えば、何のためにどのような機能が必要でそれがどう表現されるべきかなどと考える余地は殆どなく、配置することが決まった要素を何とかきれいに配置する程度の事しか出来る余地が無かったりする。つまり、USのUIデザイナーに「なぜここにこの機能が必要なのだ」みたいな質問をされても、本音は「いやあ、その機能は自分がデザインを始める前に実装することが決まっていたから、聞かれても困る・・・」というのが答えだったりするわけである。つまり、考えていないのではなく、そもそも考えることが要求もされていないというのが実態なわけである(もちろん優秀なUIデザイナーはそのような状況でも、自分なりに考えてデザインするのであるが)。

グローバルでの成功に不可欠なUIのクオリティUP

このように見てくると、日本のデジタルサービスのUIのレベルが必ずしも高くないのは、UIデザイナー個々人のレベルが低いという分けではないのだと思っている。そもそもUIをサービス開発の中で正しく位置づけ、質の高いUIを作る環境と機会をUIデザイナーに提供していないことが問題なのだと思う。おそらく、日本のデジタルサービスの開発現場というのは、エンジニアリング的な側面が強く出過ぎる傾向がつよい気がする。ユーザー向けのマーケティング目線とか、UI目線でサービスを作るという意識がUSと比較して相対的に低いのだと思うのだ。そしてそれは、おそらく意識的にそうしているわけではなく、その様なサービス開発の進め方がシステム開発の現場で意識されていないことが多いのだ。

このような話の象徴的な話が、新しいサービスのユーザーテストをして、UI上の問題点が出てきたときに開発チームに修正を依頼すると、今更そんなことを言われても予定した開発スケジュール内で直すことは出来ないみたいな回答が返ってくることが少なからずあることだ。私からしたら、その様な状況ではそもそも何のためのユーザーテストなのかという話なのだが、残念ながらその様な現場を何度も目の当たりにした。

実はこの話は、日本だけでビジネスをしていても、余り意識されることは少ない。なぜなら、日本のデジタルサービスのUIというのは所謂ガラパゴス的な状況になっており、余りGlobalのスタンダードに沿ったものとなっていない、若しくは、最新のトレンドに追いつけていないからである。しかし、そのスタンダードを認識しないまま、海外に進出すると、結構な確率で使いにくいUIのサービスだと受け取られ、多様な選択肢のあるネットビジネスの中で選んでもらえないという状況に直面する。しかし、それに気が付いたときにはすでに手遅れであることも少なくない。

このBlogで何度か話しているが、日本の経済がここまで停滞している大きな原因のひとつはデジタルビジネスというこの30年で最も成長したビジネスセクターで日本企業が全くグローバルな競争力を持つことが出来なかったからだと思う。これは日本経済の大きな問題点であり、この問題を解決しなければ、日本経済の再生は難しいのではないかと思う。そう考えた時、余り日本では認識されていないが、今回話したUIの問題とは小さくない課題な気がしている。

最後にこの問題の解決というか意識を高めるための良い方法をお伝えしてUIの話を終わりにしたい。是非、様々な海外のサイト使ってみていただきたい。特にGlobalで多言語展開されているサービスを使ってみると、ビジネスをGlobal展開するためのヒントがたくさん隠されている。ガラパゴス島を出て外の世界を見てほしいと思う。